先日、顧問先の社長からこんな相談を受けました。

「毎年なんとなく役員報酬を決めているんだけど、これって実はものすごく損してるんじゃないですか?」

鋭い直感です。実は役員報酬の設定は、会社の財務戦略の中でも最も「差がつきやすい」意思決定のひとつ。月10万円の設定差が、1年後に200万円もの税負担の違いになることもあります。

役員報酬は「3つの税金」を同時に動かすレバーです

役員報酬を上げると、会社側では損金(経費)が増えて法人税が下がります。一方、個人側では所得が増えるため所得税と住民税が上がり、社会保険料も増えます。

つまり役員報酬は、法人税・所得税・社会保険料の3つを同時に動かすレバーなのです。

このバランスを最適化できている社長は、実は少数派です。多くの社長が「毎年同じ金額にしている」か、「なんとなく設定して変えていない」状態です。

月10万円の差が、なぜ年200万円になるのか

具体的なイメージを持っていただくために、数字で整理してみましょう。

所得税の最高税率は45%、そこに住民税10%が乗って実質55%になります。この税率帯にいる社長が、役員報酬を月10万円引き下げたとします。

個人側では年間120万円の所得が減るため、所得税・住民税の節税額は最大で約66万円。さらに健康保険・厚生年金などの社会保険料も両側(会社・個人)合計で年間数十万円規模で変わります。

一方、法人側では損金が120万円減るため法人税が増えますが、税率は中小企業の実効税率で概ね25〜30%程度。この差し引きを計算すると、設定のしかた次第で年間150〜200万円規模の差が生じることは十分あり得ます。

逆方向——つまり役員報酬を上げてグロスを最適化するケースでも同じ計算が働きます。「上げた方が得か、下げた方が得か」は一律には言えません。会社の利益水準と個人の所得水準の組み合わせによって、最適解は変わります。

設定を間違えやすい3つのパターン

現場でよく見る「惜しいケース」を整理すると、おおよそ次の3パターンに集約されます。

ひとつ目は、法人利益だけを見て報酬を上げすぎるパターン。利益が出たからと報酬を大幅に増やすと、個人の所得税率が跳ね上がり、むしろ手取りが減ることがあります。

ふたつ目は、社会保険料を計算から外してしまうパターン。報酬が増えると会社負担の社保も増えます。この分を無視すると、「節税したつもりが会社のキャッシュが減っていた」という事態になります。

三つ目は、家族への役員報酬を活用していないパターン。配偶者や子どもを役員として適正な報酬を支払うことで、所得を分散して税率を下げることができます。ただしここは「不相当に高額」と税務署に判断されるリスクもあるため、業務実態の記録が重要です。

変更できるのは「期首から3ヶ月以内」だけ

ひとつ注意点があります。役員報酬は、原則として事業年度の開始から3ヶ月以内にしか変更できません(定期同額給与のルール)。この期間を過ぎてから変更すると、その差額分が損金として認められなくなります。

つまり「気づいたときに変える」では遅いのです。決算が終わって次の期が始まったタイミングで、必ず報酬水準を見直す習慣を持つことが大切です。

役員報酬の最適化は、新しい節税スキームを導入するより地味に見えますが、毎年繰り返し効いてくる「地力の節税」です。年200万円の差が10年続けば、それだけで2000万円の違いになります。

決算前に慌てて動くより、期首3ヶ月を「役員報酬の見直し期間」として毎年スケジュールに組み込んでおくことをおすすめします。顧問税理士に「今期の利益予測と最適報酬額の試算をお願いします」と一言伝えるだけで、見えていなかった数字が見えてくるはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。