先日、ある製造業の社長から相談が届きました。「退職金が1億円入ったんですが、とりあえず銀行に置いてます。何か良い預け先はありますか?」

その一言に、正直ドキッとしました。「そのままにしていると、2000万円以上損するかもしれません」と伝えると、社長はポカンとした顔になりました。

実は、退職金の投資先によって節税効果は大きく変わります。同じ1億円でも、どこに動かすかで手元に残るお金が2000万円以上変わってくることがあるんです。今回は3つの選択肢を比較しながら、その差がどこから生まれるかを解説します。

3位:銀行預金──「安全」だが節税効果はゼロ

退職金が振り込まれたら、まず銀行に預けるのは自然な行動です。でも、そのままにしておくのは節税の観点から見ると最も非効率な選択肢です。

銀行の利息には約20%の税金がかかります。低金利の今、1億円を置いておいても税後の利息はごくわずか。しかもインフレが続く局面では、実質的な購買力は年々目減りしていきます。

「安全」なのは事実です。ただし、税負担を減らすという視点では、銀行預金に節税効果はほぼありません。安全に「置いておく」だけでは、税とインフレに静かに侵食されていくだけです。

2位:NISA──強力だが、1億円には「枠が足りない」

次によく挙がるのがNISAです。NISA口座での運用益は非課税で、株や投資信託で得た利益に税金がかかりません。制度として非常に優れていますし、活用しない手はありません。

ただし、NISAの生涯投資枠は1800万円です。退職金が1億円あっても、非課税で運用できるのは1800万円分だけ。残り8200万円は通常課税のまま運用することになります。

1800万円分の節税効果は確かに大きい。でも、1億円全体を見渡すと「枠が足りない」というのが正直なところです。枠を使い切った後の8200万円をどこに置くか、そこが勝負になります。

1位:中古不動産の減価償却──年2000万円の経費が生まれる理由

1億円の退職金で最も節税効果が高い選択肢は、中古不動産を活用した減価償却です。これが1位になる理由を具体的に見てみましょう。

たとえば、残存耐用年数が5年の中古物件を1億円で取得したとします。この場合、年間2000万円の減価償却費を計上できます。5年間、毎年2000万円の経費が使えるわけです。

減価償却費は不動産所得を圧縮する効果があります。NISAの節税額と比べたとき、その差が2000万円以上になるケースも出てきます。同じ1億円を動かすだけで、これだけの差が生まれるんです。

「どの物件か」で効果は大きく変わる

ただし、中古不動産の節税は魔法ではありません。物件選びを間違えると、節税効果より修繕コストや空室リスクの方が大きくなることもあります。

節税効果の大きさは、物件の残存耐用年数と取得価格によって決まります。耐用年数が短い物件ほど、短期間に大きな減価償却費を取れる仕組みです。逆に残存耐用年数が長ければ、年間の経費計上額は小さくなります。

また、個人の所得状況や他の収入との兼ね合いによっても最適解は変わります。「節税になると聞いて買ったけど、思ったより効果が小さかった」という失敗談は、物件選びと個別状況の把握が不十分なケースがほとんどです。

退職金を受け取ったら、最初の一手が全てを決める

退職金を受け取った直後は、税務的にも人生的にも重要な転換点です。「銀行に置いておけば安心」と思ったまま1年が過ぎ、節税のタイミングを逃してしまう方が少なくありません。

1億円の退職金があるなら、少なくとも「中古不動産の減価償却」という選択肢について、早めに税理士に相談することをおすすめします。物件探しには時間がかかりますし、良い物件ほど早く動いた人のところへ行きます。

銀行に眠らせておくのと、適切に動かすのとでは、5年後の手元資金に大きな差が出ます。退職金を受け取ったその日から、「節税の出発点」として考えてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。