先日、地方で製造業を営む60代の社長から相談がありました。「自社株と自宅、それから賃貸マンションも含めると、相続税が2億近くかかると試算が出て……。何か対策はありますか?」という内容でした。
相続税が1億を超える規模になると、「生命保険で備えるか、不動産で節税するか」という選択を迫られることが増えてきます。どちらが正解かは一概には言えないのですが、2億規模であれば、その選び方によって手元に残る金額が1000万円以上変わることがあります。
今回は3つのパターンを比較しながら、どの組み合わせが効果的なのかを整理してみます。
生命保険「だけ」で対策する場合
多くの方がまず思い浮かべるのが、生命保険による対策です。相続税には「生命保険の非課税枠」という制度があり、法定相続人の人数×500万円が非課税になります。相続人が3人いれば、1500万円まで相続税がかかりません。
ただし、2億円規模の相続税を抱えている場合、1500万円の非課税効果では焼け石に水になりがちです。さらに、大きな死亡保険金を準備しようとすれば、それに見合った保険料を毎月払い続ける必要があります。
70代・80代になってからの保険料負担は重荷になることも少なくありません。保険だけに頼る対策は「手軽だが効果が限定的」というのが実情で、2億規模の相続税対策としては心もとないのです。
不動産「だけ」で対策する場合
次に、賃貸アパートや賃貸マンションを活用した不動産対策があります。こちらは相続税の評価額を大きく圧縮できる点が魅力です。
たとえば現金1億円をそのまま保有していると、相続税の評価額も1億円です。ところが、その現金で賃貸物件を購入すると、路線価評価や借地権・借家権割合の控除により、評価額が5〜6割程度に下がることがあります。「小規模宅地等の特例」が適用できる場合は、最大80%の評価圧縮も可能です。
ただし、不動産対策には見落とされがちな落とし穴があります。空室が続けば家賃収入は途絶えても、維持費や修繕費は変わらずかかってきます。また、現金と違って「いざというときにすぐ換金できない」という流動性リスクも盲点になりがちです。節税効果ばかりに意識が向いて、手元の流動性が下がりすぎるケースは珍しくありません。
保険×不動産の「二刀流」が最も効果的な理由
最も節税効果が高い方法は、生命保険と不動産を組み合わせた二刀流の対策です。
考え方はシンプルです。不動産で相続財産の評価額そのものを圧縮しながら、生命保険で相続税の「納税資金」を確保するという役割分担です。
相続税は、申告期限(相続開始から10ヶ月以内)に現金で納める必要があります。不動産は評価を下げてくれますが、税金の支払いには直接使えません。一方で生命保険の死亡保険金は、相続開始直後に現金として受け取れます。この2つを組み合わせることで、「財産全体の評価は下げつつ、納税資金はしっかり確保する」という理想の形が実現できます。
2億円規模の相続税で試算すると、保険のみ・不動産のみのケースと比較して、組み合わせた場合は節税効果に1000万円以上の差が出ることがあります。資産構成や家族構成によっては、さらに大きくなることもあります。
対策を始めるのは早いほど有利
相続対策で失敗するパターンの多くは、「考え始めるのが遅すぎた」ことです。不動産の評価圧縮効果が税務上認められるには一定の保有期間が求められますし、生命保険も高齢になるほど保険料が上がります。
「まだ元気だから大丈夫」という言葉を、何度聞いてきたことか。もし今、相続税の試算をまだしていないなら、まず現状把握から始めることをおすすめします。相続税がどのくらいかかるかを数字で見るだけで、対策の優先順位が一気に見えてきます。
特に自社株・不動産・金融資産を合わせて相続財産が2億円を超えそうな経営者の方は、対策できる時間があるうちに、ぜひ一度税理士へ相談してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。