先日、資産10億円規模の製造業を経営する70代の社長からこんな相談がありました。「そろそろ相続のことを考えないといけないと思って税理士に試算してもらったら、相続税が8000万を超えた。なんとかならないか」と。
そのとき私がまず紹介したのが、生命保険を使った相続財産の圧縮です。「保険で節税」というと怪しく聞こえるかもしれませんが、これは税法に明記された正当な方法です。仕組みを理解すれば、ほとんどの社長が使える対策です。
生命保険には「相続税がかからない枠」がある
生命保険の死亡保険金には、「500万円×法定相続人の数」分の非課税枠が税法上認められています。
たとえば奥さんとお子さん2人、合計3人が法定相続人の場合、1500万円が相続税の課税対象からそのまま外れます。法定相続人が4人なら2000万円。相続税の最高税率は55%ですから、2000万円の非課税枠は最大1100万円の節税効果を生むことになります。
これを「知っているかどうか」だけで、手元に残る財産が大きく変わります。
現金を持っているより、保険に換えた方が得な理由
もう少し踏み込んで考えてみましょう。
現金や預貯金はそのまま持っていると、全額が相続財産として課税対象になります。1億円の現金があれば、1億円まるごとに対して相続税がかかります。
一方で、その現金を生命保険の保険料として支払ったとします。社長が亡くなったとき、相続人は死亡保険金として同額前後を受け取れますが、そのうち「500万円×相続人数」の部分は非課税枠に収まります。
現金のまま持つか、保険に換えるか——動かし方ひとつで課税対象額が変わってくるわけです。これが相続税対策における生命保険の本質です。
設計を誤ると、相続税より高い税金がかかることもある
ただし、注意点があります。保険の設計を誤ると、相続税の対策になるどころか、かえって高い税率の課税を受けるケースがあります。
鍵になるのは「契約者・被保険者・受取人」の3者の組み合わせです。
- 契約者:社長、被保険者:社長、受取人:子ども → 相続税の対象(非課税枠が使える)
- 契約者:子ども、被保険者:社長、受取人:子ども → 所得税(一時所得)の対象
- 契約者:社長、被保険者:子ども、受取人:孫 → 贈与税の対象になることがある
相続税を想定して加入したつもりが、いざというときに所得税や贈与税の対象になっていた——こういった事例は実際に起きています。保険会社の担当者は保険のプロですが、税務のプロではありません。契約前に必ず税理士と連携することが不可欠です。
終身保険が相続対策に使われやすい理由
相続税対策として保険を使う場合、終身保険が選ばれることが多いです。亡くなるまで保障が一生続き、かつ死亡保険金として確実に資産が引き継がれる——この特性が相続対策にマッチしているからです。
保険料を一括で支払う「一時払い終身保険」を選ぶ社長も少なくありません。毎月の保険料負担がなく、手元の現金をそのまま保険に換えられるためです。ただし保険料の総額が大きいため、キャッシュフローへの影響を事前に試算しておくことが大切です。
まず「法定相続人が何人か」を確認するところから
相続対策の保険には、早く始めるほど有利という側面があります。年齢が上がるにつれて保険料は高くなり、健康状態によっては加入できなくなることもあります。
今日からできる第一歩は、自分の法定相続人が何人いるかを確認することです。その人数に500万円を掛けた金額が、保険で確保できる非課税枠の上限になります。次に、現在の相続財産の総額を税理士に試算してもらい、相続税の見込み額を把握する。そこから必要な保険の設計が見えてきます。
「保険を使えばいい」という単純な話ではありませんが、正しく設計された生命保険は、相続税対策の中でも特に即効性の高い手段です。担当の税理士に相続対策の経験があるか不安な方は、一度「生命保険を使った相続対策はできますか?」と尋ねてみるのが最初の一歩になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。