先日、都内で製造業を営む社長からこんな相談を受けました。「銀行に勧められて賃貸マンションを買ったんだけど、相続税対策になるって本当ですか?」というものです。

答えは「本当です。ただし、仕組みを理解してから動かないと痛い目に遭います」。今回はこの「不動産と相続税」の関係を、具体的な数字で整理してみます。

現金1億円と不動産1億円、何が違うのか

相続税は「亡くなった時点での財産の評価額」に対してかかります。現金や預金は単純で、1億円あれば1億円がそのまま課税対象です。追加の評価ルールはなく、額面が全てです。

一方、不動産の評価は異なります。土地は「路線価」という国税庁が定めた基準で評価されますが、これは時価の約8割が目安です。さらに賃貸物件として人に貸していれば「貸家建付地」という評価方法が適用され、さらに数パーセント下がります。建物部分も固定資産税評価額が基準になり、これも時価の7割前後が一般的です。

結果として、1億円で購入した賃貸アパートの相続税評価額は、おおむね5000万円前後まで圧縮されることがあります。同じ1億円の資産を持っていても、現金のままなら課税対象は1億円、不動産に組み換えれば約5000万円。この差額5000万円が、そのまま相続税の計算から外れるのです。

借入を活用すると「8割削減」も現実になる

ここに銀行借入を組み合わせると、節税効果はさらに大きくなります。

自己資金3000万円に借入7000万円を加えて1億円の賃貸不動産を取得したケースで考えてみましょう。相続税の計算では、不動産の評価額(約5000万円)から借入残債(7000万円)が「債務控除」として差し引かれます。計算上はマイナス2000万円、つまり相続財産として計上する金額がゼロになります。

これを複数物件で繰り返し、規模を拡大すると、現金保有の場合と比べて相続税評価額を2割以下に抑えた事例も実際に存在します。「8割削減」という数字はこういう仕組みから生まれています。

2022年の最高裁判決が変えたリスクの地図

ただし、2022年に最高裁で重要な判決が出たことは必ず押さえてください。

相続発生直前に高額マンションを購入して路線価評価で相続税を大幅に圧縮したケースで、税務署が「路線価評価では著しく不適当」と判断し、時価評価での課税を行いました。遺族は争いましたが、最高裁まで持ち込まれた末に税務署側が勝訴しています。

ポイントは「節税だけを目的とした、明らかに行き過ぎた取得」と認定されたことです。被相続人が高齢で、相続発生直前の数年で多額の借入を伴う不動産購入を集中させていた。この事実が、否認の根拠になりました。

不動産による相続税対策そのものは適法です。しかし「相続税を減らすためだけに買った」と見なされれば、時価評価に引き直されて想定外の課税が来ます。仕組みは使いつつ、否認されないための実態を整えることが今の必須要件です。

実態のある賃貸経営として積み上げるのが王道

否認リスクを避けながら節税効果を得るには、次の3点が核心になります。

まず、取得は早ければ早いほどいい。相続直前の購入は、どうしても節税目的という心証を与えます。10年単位のスパンで計画的に取得していれば、賃貸経営としての実態が自然と積み上がります。

次に、賃貸経営として機能させること。管理会社への委託、入居者の確保、修繕履歴の管理。「経営している」という事実が、税務調査での最大の防御になります。

最後に、相続専門の税理士と一緒に設計すること。路線価の計算、貸家建付地の適用、債務控除の使い方は物件ごとに異なります。「なんとなく有利そう」ではなく、実際の試算を出して判断してください。

現金や株式に資産が偏っている社長ほど、不動産への組み換えを一度真剣に試算してみる価値があります。数字を見ると、なぜ多くの資産家が不動産を持つのかが腑に落ちるはずです。まだ何も動いていないなら、まずは専門家に現状の資産構成を見せて、シミュレーションを依頼するところから始めてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。