先日、ある社長からこんな相談を受けました。「財産のほとんどが現預金なんですが、相続のときに何か対策できますか?」

正直に言えば、現金のまま持ち続けるのは、相続税対策としては最も不利な選択肢のひとつです。でも、ある制度を活用すれば、今日からでも動ける有効な対策があります。それが「生命保険の非課税枠」です。

500万円×人数分、まるごと税金がかからない

生命保険の死亡保険金には、税法で定められた非課税枠があります。その計算式はシンプルで、「500万円×法定相続人の数」です。

たとえば、配偶者と子ども3人の家族構成なら、法定相続人は4人。500万円×4人=2,000万円が、相続税の課税対象から丸ごと外れます。

この2,000万円を現金のまま保有していれば、全額に相続税がかかります。でも同じ金額を保険金として受け取れば、非課税です。財産の「形」を変えるだけで税負担が大きく変わるのが、この制度の面白いところです。

実効税率50%なら、節税効果は最大1,000万円

具体的な節税効果で考えてみましょう。

財産規模が大きくなるほど、相続税の実効税率は上がります。数億円規模の財産を持つ社長であれば、実効税率が40〜50%に達するケースは珍しくありません。

仮に実効税率が50%の場合、2,000万円の非課税枠を活用するだけで、節税効果は最大1,000万円になります。現金をそのまま残すか、保険に組み替えるか——その選択の違いだけで、これだけの差が生まれます。

「保険料を払う分、損じゃないの?」という疑問もよく聞きます。でも一時払い終身保険などを活用すれば、手持ちの現金を保険料として入れるだけ。財産の総額は変わらず、「課税財産」から「非課税財産」に組み替えるイメージです。

「後でいい」が一番コストの高い先送り

相続対策を後回しにする社長は、想像以上に多いです。「まだ元気だから」「保険の手続きが面倒で」——そんな理由で、何年も放置してしまう。

ただ、この非課税枠は「保険に加入した後」に亡くなってはじめて効果を発揮します。つまり、早く動くほど有利なのです。

そしてもうひとつ、見落としがちな落とし穴があります。それが健康状態です。生命保険は健康でないと、通常の条件では加入できません。「相続対策を考えたら、もう告知が通らなかった」という話は、決して珍しくないのです。健康なうちに動ける、これが相続保険の鉄則です。

非課税枠の計算、自分の家族で確認してみよう

非課税枠の金額は、法定相続人が何人いるかで決まります。ここで注意点がひとつあります。

相続放棄をした人がいても、法定相続人の人数には含みます。一方、養子については人数制限があります。実子がいる場合は1人まで、いない場合は2人まで、しか非課税枠の計算に算入できません。

自分の家族構成でいくらになるのか、一度きちんと試算しておく価値があります。「思ったより非課税枠が少なかった」という社長も、実際には少なくありません。

まず、今入っている保険を棚卸しするところから

すでに何らかの生命保険に加入している社長も多いと思います。でも「死亡保険金の合計額がいくらか」「非課税枠のうちどれだけ使えているか」を正確に把握している方は、意外と少ないです。

まずは保険証券を引っ張り出して、死亡保険金の合計を確認してみてください。「500万円×法定相続人数」という非課税枠と照らし合わせれば、余裕があるのか、足りていないのかがすぐ見えてきます。

もし生命保険を相続対策として真剣に考えたことがないなら、今期の決算が終わったタイミングで担当税理士に「うちの相続、保険でどう整理できますか」と一言聞いてみてください。その問いかけから始まる対策が、1,000万円単位の節税につながることもあります。健康で動ける今が、一番のタイミングです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。