先日、都内で製造業を営む60代の社長から、こんな相談を受けました。「税理士に試算してもらったら、相続税が5,000万円近くかかると言われた。何か手を打てないか」と。
その社長、決して放漫な資産管理をしていたわけではありません。ただ、ひとつの手段を見落としていた。それが生命保険を使った節税です。
法律が認めた「現金の変換術」
相続税法には、あまり知られていない条文があります。「死亡保険金の非課税枠」です。
計算式はシンプルで、500万円 × 法定相続人の数。相続人が配偶者と子ども2人の合計3人であれば、1,500万円が丸ごと非課税になります。4人家族なら2,000万円です。
現金や預貯金はそのまま持っていると、全額が相続税の課税対象です。ところが、その現金で生命保険料を払っておくと、受け取る死亡保険金は非課税枠の範囲内で税金がかかりません。同じ1,500万円なのに、「何に変えて持つか」だけで課税が変わる。これが保険を使った相続対策の本質です。
具体的にいくら節税できるのか
先ほどの社長のケースで計算してみましょう。相続財産が3億円、法定相続人は配偶者と子ども2人の計3人です。
非課税枠は500万円×3人=1,500万円。現金1,500万円を生命保険に組み替えることで、その分が非課税財産に変わります。
相続財産3億円の税率ゾーンが30%なら、1,500万円 × 30% = 約450万円の節税効果です。保険料の払い方を変えるだけで、450万円手元に残る計算になります。「そんな簡単な話なの?」と思われるかもしれませんが、これは法律が明確に認めた正当な節税手段です。
3つの「落とし穴」を知っておく
ただし、保険なら何でもいいわけではありません。節税効果を確実に得るために、必ず押さえておきたい注意点が3つあります。
受取人は必ず法定相続人に設定する
非課税枠が使えるのは、受取人が法定相続人である場合に限られます。内縁の配偶者や孫(子が存命の場合)を受取人にすると、非課税枠は適用されません。既存の保険契約がある方は、一度受取人の設定を確認してみてください。
保険料総額と返戻率をセットで試算する
節税効果だけを見て加入すると、「払った保険料の総額が、受け取れる保険金を上回っていた」という本末転倒な結果になりかねません。特に分割払いの終身保険は払込総額が膨らむケースがあります。一時払い終身保険は返戻率が比較的安定していますが、それでも100%を下回ることがあるので、節税メリットとコストをトータルで比較することが大切です。
加入は「健康なうち」が大前提
保険は健康状態が悪化すると加入自体が難しくなります。年齢が上がるほど保険料も高くなるため、「そのうち考えよう」と先送りにするほど選択肢が狭まります。相続対策は早めに動くほど有利です。
「現金で持つ」以外の選択肢を持つ
事業で成功した社長ほど、資産のほとんどが現預金や自社株という方が多いです。そのまま相続すると、遺族が税金の支払いに困るケースも珍しくありません。
生命保険への組み替えは、相続税の圧縮だけでなく、遺族が「すぐに現金を受け取れる」という流動性の確保にもつながります。不動産や自社株と違い、保険金は申請から数週間で支払われます。これは遺族にとって非常に助かる仕組みです。
5,000万円の相続税が見込まれるなら、非課税枠の活用だけで450万円が変わってくる。まだ生命保険を相続対策として活用していないなら、今期中に税理士と一緒に保険の組み替えシミュレーションをしておくことをお勧めします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。