先日、埼玉の製造業の社長からこんな相談を受けました。
「父から相続した土地があるんですが、何も活用できていなくて……固定資産税だけ払い続けているんです」
広さは1000㎡。都市郊外の工業地帯に隣接する土地で、売るに売れず、かといって活用するアイデアも出ないまま、気づけば10年が過ぎていた、というのです。固定資産税は年60万円。10年で実に600万円。何も生まないまま消えていったお金です。
放置している土地は「負動産」ではなく「節税資産」かもしれない
顧問税理士が提案したのは、法人への移転でした。
個人で土地を持っていると、そこから生まれる賃貸収入などには最大55%の所得税・住民税がかかります。一方、法人であれば実効税率はおよそ34%前後。この21ポイントほどの税率差が、節税の核心です。
田中社長(仮名)のケースでは、法人名義に移転した土地で賃貸収入を得る仕組みを整えることで、個人保有のままだった場合との税率差が毎年積み上がっていく計算になります。
10年・2000万円の試算ができた理由
節税効果の内訳は、大きく2つです。
ひとつは、所得税の差額。仮に年間賃料収入が500万円あれば、それだけで年間100万円超の税率差が生まれます。10年積み上げれば、それだけで1000万円規模になります。
もうひとつは、相続税の削減。実はこちらが金額的に大きい。法人が第三者に貸し出す形にすることで、その土地は「貸宅地」として評価されます。相続税の評価額が路線価ベースから大きく圧縮され、将来の相続時に課税対象となる財産総額が下がるのです。
田中社長の場合、10年分の所得税差額と将来の相続税削減効果を合わせて試算したところ、約2000万円という数字が出ました。
「売れない土地」を活かす発想の転換
遊休地を持つ社長の多くが、こう考えています。「いつか使えるときが来たら」「相場が戻ったら売ろう」。
でも、固定資産税を払いながら10年待つのは、毎年60万円をただ消費していることと変わりません。法人移転の発想は、「売るか使うか」の二択に縛られていた思考を解放してくれます。今すぐ活用しなくても、法人の器に収めて賃貸収入の受け皿を作るだけで、税効率が劇的に変わるのです。
移転前に確認しておきたい3つのポイント
とはいえ、法人移転には当然コストと手間もあります。事前に把握しておくべき点を整理しておきましょう。
移転時の譲渡税コスト。 個人から法人への不動産移転は、原則として時価での売却扱いになります。相続で取得した土地を売却すると、その時点の時価に基づいて譲渡所得税が発生することがあります。移転のタイミングや方法の選択は、試算をしっかり行った上で慎重に判断してください。
法人の維持コスト。 既存の自社法人があればそこに移転できますが、新設なら設立費用と毎年の法人住民税(最低7万円)が発生します。節税効果と天秤にかけて判断が必要です。
適正な取引実態の確保。 法人への移転が税務上適切に認められるには、時価での取引と、実態のある賃貸関係の構築が不可欠です。形式だけ整えた「名義だけ移転」は税務調査で否認されるリスクがあります。
今すぐ確認したい2つのこと
相続や贈与で取得した遊休地をお持ちの社長は、まず顧問税理士にこの2点を確認してみてください。
- その土地の現在の時価と固定資産税評価額の差がどれくらいあるか
- 法人移転した場合の譲渡所得税と、10年・20年の節税効果を比較した試算
田中社長は「もっと早く相談すれば良かった」と話していました。10年放置している間に払い続けた600万円の固定資産税は戻りませんが、今からでも動けば2000万円規模の効果が残っています。
使っていない土地を「仕方のない出費」として諦めていた方は、一度だけ専門家に試算を依頼してみてください。放置している土地が節税資産に変わる可能性は、思っているよりずっと高いはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。