先日、資産家のオーナー社長からこんな連絡が届きました。「顧問税理士から『今すぐ対策を打たないと、数億円の追加課税になる可能性がある』と言われた。どういうことか教えてほしい」と。

話を聞いてみると、その社長は10年以上前に都内の一等地にマンションを購入していました。「路線価で評価すれば相続税が大幅に下がる」と当時アドバイスを受け、節税になると信じて疑わなかったのです。

ところが今、そのマンションは「時限爆弾」になっているかもしれない状況です。

「路線価5分の1」の仕組みとは

不動産の相続税評価は、原則として「路線価」(国税庁が毎年公表する価格)で計算します。この路線価、実は時価(実際の市場価格)の約80%水準に設定されているのが基本です。

ところが都心のタワーマンションや一等地では、時価と路線価の乖離が異常に大きくなるケースがありました。時価5億円の物件でも、路線価評価では1億円を切るようなケースです。

この差を使えば、相続税の計算基準を時価の5分の1以下に圧縮できる。「不動産を買えば相続税が激減する」という話の正体は、ここにあります。実際、多くのオーナー社長がこの仕組みを活用してきました。

2022年、最高裁がゲームを変えた

長年、この手法は合法的な節税として広く使われてきました。節税目的であることが明らかでも、路線価評価が認められてきたからです。

ところが2022年4月、最高裁判所が歴史的な判決を下しました。

内容を簡単にいうと「時価と路線価の乖離が著しく、租税負担の公平を害する場合には、時価で課税できる」というものです。税務署側が逆転勝訴し、追加課税が認められました。

この事件の概要はこうです。被相続人が亡くなる直前に借入金で購入したマンション2棟、購入価格の合計は約13億3000万円。しかし路線価評価では約3億3000万円に下がり、借入金と相殺すると相続税はゼロという申告でした。最高裁はこれを「租税回避」と認定し、約1億3000万円の追加課税を認めたのです。

「やりすぎた節税」に、司法がはっきりとノーを突きつけた瞬間でした。

「10年前に買った物件」も他人事ではない

判決の影響は広範囲に及んでいます。税務署は今、時価と路線価が大きく乖離している相続案件を厳しくチェックしています。

「どのくらい乖離していたら危険か」という明確な基準はありません。ただ実務上は、路線価が時価の50%を大きく下回るようなケースが調査対象になりやすいとされています。

「昔に買った物件、まさか今頃になって問題になるわけがない」と思っている方もいるでしょう。しかし相続税は「相続が発生した時点」の評価が問題になります。つまり、今後の相続が発生したときに、この判決の論理が適用されるリスクがあるということです。

2024年、マンション評価ルールも大改正

最高裁判決に続き、2024年1月からは区分マンションの相続税評価方法も変わりました。

これまでは一室ごとの評価が低く算定されやすかったのですが、新ルールでは「市場価格との乖離率」が大きい場合に評価額が引き上げられる仕組みになっています。タワーマンションの高層階は特に影響が大きく、評価額が2〜3倍に跳ね上がるケースもあります。「タワマン節税」と呼ばれていた手法は、事実上封じられた形です。

今すぐ確認すべきこと

もし不動産を相続対策として保有しているオーナー社長は、以下を専門家と確認してください。

  • 時価と路線価の乖離幅:現在の市場価格と路線価評価の差がどのくらいあるかを把握する
  • 取得の経緯と時期:相続直前に借入金で購入したような事情があれば特に注意
  • 区分マンションの新評価:2024年以降のルールで評価がどう変わるかを試算する

節税のつもりで抱えていた不動産が、気づかないうちに時限爆弾になっているケースは、思いのほか多いのです。


不動産を活用した相続対策は、今でも有効な手段ではあります。ただし「時価との乖離が著しい」「節税目的が明白」という状況では、最高裁判決の論理が現実の追加課税につながるリスクがあります。

保有不動産の評価状況をまだ確認していないなら、早めに相続専門の税理士に相談することをおすすめします。「知らなかった」では済まされない事態が、すでに始まっています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。