先日、63歳の社長からこんな相談を受けました。「あと5年で引退しようと思っている。息子に会社を譲る前に、何かやっておくことはあるか?」と。
話を聞いてみると、役員報酬は毎月150万円、会社の業績も安定している。でも、経費の使い方については「特に何もしていない」という状態でした。
これは、もったいない。本当にもったいない話です。
実は、引退前の5年間というのは「合法的な手取り増」を仕組む最後のチャンスです。この時期に3つのことをやっておくかどうかで、引退後の手元に残るお金が2000万円以上変わってくることがあります。
役員社宅で、年120万円を取り戻す
多くの社長が見落としているのが、役員社宅の活用です。
今、自分で家賃を払っていませんか?それ、法人が借り上げて「社宅」として提供する形にすれば、家賃の大部分を会社の経費にできます。社長個人が負担するのは、国税庁の通達で定められた「賃貸料相当額」だけでいい。一般的な物件なら、実際の家賃の10〜20%程度です。
仮に月20万円の家賃の自宅を社宅化すると、個人負担は月2〜3万円で済む計算になります。差額の17万円前後が、実質的な手取り増です。年間にすると約120〜200万円。これを5年続ければ、それだけで600万〜1000万円の差が生まれます。
「今さら引越しできない」という方も、現在住んでいる物件を一度法人名義で契約し直す方法があります。手続きは少し面倒ですが、毎年の手取りへの影響を考えると検討する価値は十分にあります。
旅費規程を作るだけで、年60万円が非課税に
旅費規程の話をすると、「うちは旅費の精算はやっている」と言う社長が多い。でも、「日当」を払っていますか?
出張の際に支払う「日当」は、適切な旅費規程があれば非課税の手当として扱えます。給与として課税されないということは、社会保険料もかからない。会社にとってはコスト増に見えますが、社長個人の可処分所得は増えます。
例えば、国内出張日当を1日5000円に設定して、月に4〜5回出張があれば、月2万〜2.5万円。年間で約25〜30万円の非課税収入が生まれます。海外出張や宿泊を伴う場合はさらに積み上がります。きちんと規程を整備して運用すれば、年間60万円前後の手取り増は十分に狙えます。
旅費規程は、税務調査でも必ずチェックされます。「慣習でやっていた」では通りません。書面として整備しておくことが前提です。
法人保険で退職金を積み立てる
引退前の最大の「節税イベント」は、退職金です。
退職所得には「退職所得控除」という強力な特典があります。勤続年数20年超であれば、年70万円×超過年数で控除が計算されます。30年なら最大2200万円が控除対象。さらに、退職所得は控除後の金額を2分の1にしてから課税する仕組みなので、通常の給与所得と比べて圧倒的に税負担が軽くなります。
ここで重要なのが「退職金の原資をどこから出すか」という問題です。引退直前に利益が出ていない状態では、退職金を払いたくても払えない。だからこそ、5年かけて法人保険で計画的に積み立てておく必要があります。
保険の種類や設計によって損金算入の扱いが変わりますし、2019年以降のルール改正で商品が大きく変わっています。「昔の感覚」で選ぶと期待した効果が出ないこともあるので、信頼できる税理士と一緒に設計するのが必須です。
5年の積み上げが、2000万円の差を生む
まとめると、こういうことです。
- 役員社宅:年120〜200万円 × 5年 = 600万〜1000万円
- 旅費日当:年60万円 × 5年 = 300万円
- 退職金の最適化:状況次第で数百万〜1000万円単位の税負担軽減
合計すると、何もしなかった場合と比べて2000万円を超える差が出てくるのは、現実的な話です。これは架空の話でも節税スキームでもなく、税務の教科書に載っている基本的な制度の組み合わせです。
知っているか、知らないかだけの差です。
もし旅費規程をまだ作っていないなら、今期中に整備しておくことをおすすめします。役員社宅も、来期の更新タイミングから切り替えることができます。退職金の積み立ては、早く始めるほど選択肢が広がります。
引退後の生活水準は、引退してから決まるのではありません。引退前の5年間に、どれだけ準備したかで決まります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。