法人成りをしてから「なんか思ったより節税できていない」と感じている社長は、意外と多いです。

先日、会社設立から4年が経つ建設業の社長から相談を受けました。売上は順調に伸びているのに、手元に残るお金がなぜか少ない。顧問税理士には「問題ない」と言われているのに、どこか腑に落ちない、と。

話を聞いていくと、「知らなかった」ではなく「当時は気にしていなかった」という落とし穴が3つ重なっていました。今日はその3つを、具体的な金額も交えてお話しします。

3位:役員報酬を「とりあえず低め」に設定してしまった

法人成り直後、「売上が安定するまでは控えめに」と役員報酬を低く抑える社長は少なくありません。慎重な判断として理解できます。ただ、役員報酬には大きな制約があります。

変更できるのは期首から3ヶ月以内だけ、というルールです。

この期間を過ぎると、原則として年度途中では変更できません。「売上が伸びたから報酬を上げよう」と思っても、次の期首まで待つしかないのです。1年間、低い報酬のまま固定されてしまう。

さらに見落としがちなのが、役員報酬の額が退職金の算定に影響してくる、という点です。在職中の報酬をベースに退職金が計算されるケースが多く、「最初の数年は低くしておいた」だけのつもりが、10年後・20年後の退職金にまで影響が出てきます。設立初年度の設定は、思っている以上に重要な意思決定です。

2位:役員社宅をまったく使っていなかった

「社宅なんて大企業の話でしょ」と思っている社長もいますが、これは中小企業でも十分に活用できる制度です。

仕組みはシンプルで、自宅の賃貸契約を個人名義から法人名義に切り替えるだけ。法人が大家と契約し、社長はそこを社宅として借りる形にします。こうすることで、家賃の50〜90%を会社の経費として計上できるようになります。

月20万円の家賃なら、年間では最大216万円が経費になる計算です。これを個人で払っていたら、社会保険料や所得税を差し引いた手取りから出すことになります。法人経費にすることで、丸ごと会社の支出にできる。その差額は、積み上げると相当な金額になります。

ただし注意点もあります。自己所有の不動産は対象外になる場合があること、また「賃貸料相当額」を社長が一部負担しないと給与扱いになるリスクがあること。設計を誤ると節税どころか課税強化になりかねませんので、顧問税理士と一緒に正しく整備することが大切です。

1位:退職金の準備をまったくしていなかった

これが、最もインパクトが大きく、最も後回しにされやすいミスです。

法人役員の退職金は、個人として資産を築く手段として最強クラスの節税効果を持っています。ところが「退職なんてまだ先の話」と放置してしまい、気づいたら50代後半になっていた、というケースが実に多い。

退職所得には「退職所得控除」という特別な非課税枠があります。勤続年数20年超の部分は1年あたり70万円の控除。たとえば勤続30年なら、控除額だけで1,500万円になります。

さらに、退職所得は控除後の金額をさらに2分の1にしてから課税されます。3,000万円の退職金なら、課税対象は「(3,000万円-1,500万円)÷2=750万円」です。同じ3,000万円を役員報酬として毎年少しずつ受け取れば、全額が給与所得として課税される。退職金という形で受け取るだけで、手取りが大きく変わってくるのです。

準備の方法は小規模企業共済や経営者向け保険など複数あり、それぞれに特徴と税務上の扱いが異なります。早い段階から顧問税理士と設計しておくことが、将来の手取りを最大化するうえで欠かせません。


法人成りしたばかり、あるいは設立から数年という社長にとって、今は見直しのベストタイミングです。役員報酬の水準、社宅の活用、退職金の準備設計。この3つは、後からではリカバリーできないケースもあります。「まだ早い」ではなく、「今のうちに整えておく」というスタンスで、一度顧問税理士に相談してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。