先日、大阪で製造業を営む山田社長(仮名)からこんな相談を受けました。

「年商は3億を超えているのに、なぜかいつも手元にお金が残らないんです」

売上は順調に伸びている。利益が出ていないわけでもない。なのに毎年決算が終わるたびに「また消えた」という感覚がある——。そう打ち明ける山田社長と一緒に、会社の数字を洗い直してみることにしました。

思わぬ「設計ミス」が年200万円を溶かしていた

財務諸表を見ると、問題はすぐに浮かび上がってきました。役員報酬の額が、会社の利益水準に対してまったくかみ合っていなかったのです。

役員報酬は「もらいたい額を決める」だけのものではありません。会社の利益と個人の所得のバランスを最適化することで、法人税・所得税・社会保険料の合計負担を最小化できる「設計の余地」があります。山田社長のケースでは、この設計が長年放置されていました。

月100万円への再設計で起きた変化

税理士に試算してもらうと、役員報酬を月100万円に再設計するだけで、3つの税負担の合計が年間約200万円減ることがわかりました。

まず法人税の面では、役員報酬は会社の損金(費用)として計上できます。報酬を最適化することで、課税対象となる法人利益を適切なラインに調整できます。

次に所得税。個人の所得が増えると累進課税が重くなりますが、逆に低すぎると各種控除を使いきれなくなる場合もあります。山田社長のケースは、報酬を引き上げることで控除の恩恵をフルに受けられる状態でした。

そして社会保険料。標準報酬月額には等級の上限があり、一定以上の報酬では保険料が実質的に頭打ちになります。この上限も計算に組み込むことで、「3つの合計が最も少なくなる額」を見つけることができます。

結果として年200万円のコスト削減。月に換算すれば16万円以上が、同じ仕事量・同じ売上のままで手元に残る計算になります。山田社長は「こういう試算、一度も受けたことがなかった」と少し驚いた様子でした。

最適額は人によってまったく違う

ここで一点、注意が必要です。「月100万円が正解」というわけではありません。

最適な役員報酬の額は、会社の年間利益の水準、社長自身の他の収入の有無、配偶者や扶養家族の状況、加入している健康保険の種類(協会けんぽか健保組合か)などによって大きく変わります。

年商1億と5億では利益の絶対額が違いますし、配偶者が別に収入を持っているかどうかで所得控除の計算も変わります。「あの社長が月100万にしたから自分も同じにしよう」という判断では、かえって損をするケースもあります。試算は必ず自社の実際の数字で行うことが大切です。

見直せるタイミングは限られている

役員報酬には「定期同額給与」というルールがあります。一度決定したら、原則として事業年度の途中では変更できません。変更が認められるのは、事業年度開始から3か月以内が原則です。

つまり、決算が近づいてから「今期は利益が多かった、もっと高く設定しておけばよかった」と気づいても、税務上は間に合わないことがあります。後悔のないよう、タイミングを意識しておくことが重要です。

「なんとなく手元にお金が残らない」と感じているなら、次の事業年度が始まる前——決算の3か月ほど前を目安に、一度税理士にシミュレーションを依頼してみてください。最適な役員報酬の設計は、一度見直せば数年にわたって効果が続きます。まだ一度もこの試算を受けたことがないなら、今期こそ動いておく価値があります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。