「まさかこんなことになるとは思っていなかった」
先日、そう話してくれた建設業の社長がいました。会社の業績は順調で、個人資産もそれなりに蓄えてきた。でも相続税の対策だけは、ずっと後回しにしてきたと言うのです。
実は、相続税に関して何らかの「しまった」を経験する社長は、年間おおよそ6万人にのぼります。これは決して他人事ではなく、会社を大きくしてきた社長ほど、気づかないうちにリスクを抱えているケースが多いのです。
今回は、社長たちがよく陥る相続税の失敗パターンをランキング形式でご紹介します。
第3位:生命保険の非課税枠をまるごと使い残していた
「生命保険は万が一のときのための保障」——そう思っている社長は多いと思います。でも実は、相続税の節税においても非常に強力なツールになります。
相続税には「500万円 × 法定相続人の数」という生命保険の非課税枠があります。法定相続人が4人いれば、2,000万円分の保険金が丸ごと非課税になる計算です。
ところが、この枠をまったく使わないまま相続を迎えた社長が後を絶ちません。現金や預金のまま持っていれば全額が課税対象になってしまう財産を、保険に組み替えるだけで数百万円単位の節税ができたはずなのに、それをしていなかった。「知っていれば絶対に対策していた」という声が、現場では本当によく聞かれます。
加入には健康状態の審査が伴います。若くて健康なうちに動いておくことが、ここでも大切です。
第2位:自社株の評価額を「感覚値」で見積もっていた
非上場の中小企業の株式は、相続が発生したときに税務署が定めた計算方式で評価されます。これが厄介で、会社の業績が良ければ良いほど株価が高くなる仕組みになっています。
ある卸売業の社長のケースが忘れられません。毎年利益が順調に伸び続けたことで、いざ相続が発生したとき、株式の評価額が社長の想定の2〜3倍に膨れ上がっていたのです。
納税資金が足りなくなり、最終的には自分が育ててきた会社の株式を手放すことになりました。相続税を払うために、自社株を売る——これほど悔しいことはないはずです。
自社株の評価額は、「なんとなくこれくらいだろう」という感覚と大きく乖離することがあります。特に業績好調な会社の社長は、定期的に専門家へ評価額のシミュレーションを依頼することをおすすめします。対策には時間のかかる手法が多く、早めに動くほど選択肢が広がります。
第1位:対策を先送りにしていたら、認知症になってしまった
これが最も多く、そして最も取り返しのつかない失敗です。
「いつかやろう」「もう少し落ち着いてから」——そう言いながら相続対策を後回しにし続けた結果、認知症と診断されてしまった社長が、想像以上に多くいます。
認知症になると、贈与や遺言書の作成など、相続対策の多くの法律行為ができなくなります。本人の意思能力がないと判断されるからです。家族信託や任意後見といった制度を事前に整えていれば動ける余地もありますが、何も準備していない状態で認知症を迎えると、打てる手がほとんどなくなってしまいます。
本当に怖いのは、認知症は突然やってくることがある、という点です。「うちはまだ先の話」と思っていた社長が、翌年には法律行為が難しい状態になっていた——これが、現場で最も多く報告されている失敗パターンです。
相続対策は「元気なうちにしかできない」
以上の3パターンに共通しているのは、すべて「早く動いていれば防げた」という点です。
生命保険は健康状態が悪化すると加入できなくなります。自社株対策は時間をかけた手法ほど効果が大きい。そして認知症になれば、対策そのものができなくなります。
今期中に一度、信頼できる税理士に「相続税のシミュレーションをしてほしい」と声をかけてみてください。現状の評価額を数字で把握するだけでも、次に取るべき行動が見えてきます。気づいたときが、動き始める最善のタイミングです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。