ある日、50代の製造業オーナーからこんな相談が届きました。「息子に自社株を渡したいんだけど、贈与税がとにかく高くて…。何か良い方法はないですか?」
自社の株価を評価してみたところ、1億円。単純計算すると贈与税は約4,800万円になります。その数字を見た瞬間、「生きているうちは渡せない」と諦めるオーナー社長は少なくありません。
でも実は、3つの手法を正しい順序で組み合わせると、この税額を8割以上削減できるんです。ポイントは「手法の有無」ではなく、「使う順序」にあります。
「順序を間違えると大損する」相続時精算課税の罠
まず、多くの社長が最初に飛びつく制度の話から始めます。
相続時精算課税という制度をご存知でしょうか。2024年の改正で年110万円の基礎控除が追加されたことで、「毎年110万円ずつ非課税で株を贈れる」と節税界隈で注目を集めています。使い方によっては確かに強力な武器になります。
ただし、これを最初に使うのは危険です。
相続時精算課税を一度選択すると、その後は暦年課税に戻ることができません。後述する「株価引き下げ」を先にやっておけば、そもそも贈与する株の評価額自体を大幅に圧縮できます。高い株価のまま先に贈与してしまうと、後から後悔しても手が打てないんです。
「使える制度があった→すぐ使う」という反応は気持ちとしてわかりますが、この場合は完全に裏目に出ます。
先にやるべき「贈与前の株価引き下げ」
自社株の評価方法には、類似業種比準価額という計算方式があります。同業他社の株価水準と比較して評価する方法で、いくつかの合法的な手続きによって評価額を引き下げることが可能です。
具体的な手法としては、役員退職金の支給、不要資産の整理、含み損資産の処分、利益の平準化などがあります。これらを決算前のタイミングで戦略的に組み合わせると、株価の評価額を大幅に圧縮できます。
先ほどの1億円の自社株が、3,000〜4,000万円台まで下がるケースも十分にあり得ます。課税ベースを下げることで、その後の贈与税計算が根本的に有利になるわけです。
ここを飛ばして制度に飛びつくと、高い株価のまま計算されてしまいます。「株価引き下げが先、制度活用が後」という順序は絶対に崩さないようにしてください。
仕上げの一手「事業承継税制の特例措置」
株価を十分に下げた後に使う切り札が、事業承継税制の特例措置です。
この制度を使うと、贈与税が最大100%猶予されます。猶予と免除は厳密には異なりますが、要件を満たし続けることで実質的に税負担がゼロになるケースも多く、経営者の間では「贈与税がかからない制度」として認識されています。
ここで注意しなければならないのが、申請期限です。
特例措置の認定申請ができるのは、2027年12月末まで。今から数えると1年半しかありません。「来年から検討しよう」と思っていたら、株価引き下げの準備期間を含めて考えると、もはや時間的な余裕はほとんど残っていません。
期限を過ぎると、この制度は使えなくなります。焦るより早く動く方が得策です。
3手法の正しい順序をまとめると
整理すると、正しい活用順序はこうなります。
まず株価引き下げで課税ベースを圧縮する。次に事業承継税制の特例措置で贈与税の最大100%を猶予する。そして相続時精算課税は、補完的な手段として活用する。
この3ステップを正しい順序で踏むことで、当初4,800万円かかる見込みだった贈与税が、ほぼゼロに近い水準まで圧縮できます。手法そのものは同じでも、順序が違うだけで税額が8割も変わってくる。これが事業承継節税の怖さでもあり、面白さでもあります。
事業承継の準備は「早すぎる」ということはありません。2027年の特例期限が迫っている今、今期中に税理士と一度シミュレーションを走らせておくことを強くおすすめします。動き出すタイミングが早いほど、打てる手の数が増えます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。