先日、顧問先の社長からこんな話を聞きました。
「保険会社の担当者に勧められて、毎年500万円の法人保険に加入しています。これで節税できてますよね?」
正直に言うと、少し言葉に詰まりました。その保険、節税になっていない可能性が高いからです。
2019年、国税庁が「抜け道」を完全に塞いだ
かつて経営者保険は確かに強力な節税ツールでした。保険料を全額損金算入しながら、解約返戻金で資産も貯められる——そんな「一石二鳥」の設計が、経営者の間で流行していた時代があります。
しかし2019年、国税庁が通達を改正。この流れに明確な歯止めをかけました。
改正のポイントはシンプルです。「解約返戻率が高い保険ほど、損金に算入できる割合が下がる」という仕組みが導入されたのです。
返戻率85%超なら、損金はたった10%
現行ルールを具体的な数字で確認してみましょう。
解約返戻率が85%を超えるような、いわゆる貯蓄性の高い保険の場合、保険期間の前半は保険料のうち10%しか損金にできません。残りの90%は「資産計上」として処理されます。
年間500万円の保険料を払っている場合、損金に算入できるのはわずか50万円。実効税率を約34%とすると、節税効果は50万円×34%=約17万円です。
「500万円の節税になっている」と思い込んでいた社長には、かなり衝撃的な数字ではないでしょうか。
残りの450万円はお金が帳簿上に積み上がっているだけで、税金はまったく減っていません。
「節税になる」という説明が広まった理由
保険会社の担当者が悪意を持って説明していたわけではないと思います。ただ、2019年改正以前の古いロジックで案内が続いているケースや、「解約返戻金を受け取ったときに税金が繰り延べられる」という効果を「節税」と言い換えているケースが混在しています。
繰り延べとは、今払う税金を将来に先送りすること。節税とは、払う税金の総額を減らすこと。この二つは、意味がまったく違います。
この区別を曖昧にしたまま「節税効果がある」と案内される商品が、今でも少なくありません。
正しい活用法は「退職金との組み合わせ設計」
では、経営者保険に加入する意味がないのかというと、そうではありません。活用タイミングと設計が重要なのです。
正しい使い方は、社長の退職タイミングに合わせて解約することです。解約返戻金は益金算入されるため、そのままでは一気に利益が膨らんで課税されます。そこに退職金の支払いをぶつけることで、退職所得控除という強力な控除を活かしながら課税所得を圧縮できます。
「保険料を払っている期間に節税する」のではなく、「解約時に退職金と組み合わせて課税所得を抑える」——この設計が成立するかどうかは、加入前の計画段階でほぼ決まります。退職まで何年あるか、退職金をいくら支払う予定か、そこから逆算して保険の解約時期と金額を設計するのが正しい順序です。
今入っている保険を一度確認してみてください
もし現在、法人保険に加入しているなら、保険証券と設計書を税理士に見せることをお勧めします。
確認すべき点は主に3つです。解約返戻率がどのくらいに設定されているか。現在の損金算入割合は何パーセントか。そして解約予定時期と退職金支払いの計画が一致しているか。
保険料を払い続けていること自体が問題ではありません。ただ、「節税のために払っている」という認識のズレを放置しておくのが最もリスクです。
「毎年500万払っているから大丈夫」という感覚のまま何年も続けているケースは意外に多い。まだ保険の内容を税理士と一度も確認していないなら、次の決算前に必ず確認しておくことを強くお勧めします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。