先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「10年かけて法人で保険を積み立てて、もうすぐ解約して退職金に充てようと思っているんですが、税理士に相談したら急に顔色が変わって……」

積立額は約1億円。退職後の生活設計もほぼ固まっていたのに、税理士から言われた一言が頭から離れないと言うのです。「解約返戻金には、まず法人税がかかりますよ」と。

解約返戻金は「法人の収入」として課税される

法人で経営者保険を積み立て、解約返戻金を退職金の原資にする——これは多くの社長が実践している定番の手法です。でも、このスキームには見落とされがちな「落とし穴」があります。

解約返戻金は、保険を解約して法人が受け取った時点で「益金」として課税対象になります。つまり、1億円の返戻金を受け取っても、そのまま1億円が退職金になるわけではありません。

法人の実効税率はおおむね30〜34%。1億円に課税されれば、約3,000万円が法人税として消えていきます。手元に残った7,000万円前後を退職金として支払う計算になるのです。

「積立中の節税」と「解約時の課税」はセット

「でも、積立中は保険料を損金に落とせたはず……」とおっしゃる社長も多いです。

確かにそのとおりです。損金算入できる保険ほど、積立期間中の節税効果は高くなります。毎年の保険料を損金に計上しながら積み立てができる——これが経営者保険の最大の魅力です。

ただし、このトレードオフを正確に理解しておく必要があります。損金算入の割合が大きい保険ほど、解約時に発生する益金も大きくなりやすい傾向があります。積立中に得た節税メリットは、解約時に一度にまとめて精算されるイメージです。

「節税になると聞いて入った保険が、退職のタイミングで大きな税負担になる」——これが多くの社長が直面するリアルな問題です。

個人の退職所得控除の前に、法人課税が先に来る

法人が受け取った解約返戻金を社長の退職金として支払えば、今度は個人の側で「退職所得控除」という大きな優遇が受けられます。

勤続年数が20年を超えると、1年あたり70万円の控除が使えます。たとえば30年勤めた社長なら、20年×40万円+10年×70万円=1,500万円の控除。さらに退職所得は2分の1課税なので、個人の税負担はかなり軽くなります。

問題は「順番」です。個人が退職所得控除の恩恵を受ける前に、まず法人段階で約30%が課税される。この二段階の構造を見落とすと、手元に残る金額が数千万円単位で変わってきます。

解約タイミングと保険の種類が命運を分ける

では、どうすればいいのでしょうか。結論から言うと、「解約タイミングの設計」が最重要です。

法人の利益が少ない年度に解約すれば、課税額を抑えられる可能性があります。業績が落ちた年や、他の損金が多く発生する期を狙うのが基本的な発想です。また、退職金の支払いを保険の解約と同じ決算期にまとめると、益金と損金を相殺できる場合があります。退職金の支払いは法人の損金になるため、うまく重ねることで法人税の負担を大幅に圧縮できるケースがあります。

さらに、加入している保険の種類によっても最適な戦略は変わります。全額損金タイプと半損タイプでは積立中と解約時の税務処理がまったく異なるため、自社の保険内容をきちんと把握した上で設計することが欠かせません。

「解約前」に動くことが最大のポイント

声を大にしてお伝えしたいのは、「解約してしまってからでは遅い」ということです。

解約後に相談しても、できることは限られます。一方、解約前であれば、タイミングの調整、退職金規程の整備、保険内容の見直しなど、打てる手がいくつもあります。「そろそろ退職を考えている」「保険の満期が近い」「事業承継を検討している」——そのタイミングが来る1〜2年前から税理士と一緒に設計を始めるのが理想です。

経営者保険は「積み立てて終わり」ではなく、「いつ・どうやって解約するか」がスキームの核心です。その設計次第で、手元に残る退職金が大きく変わることを、ぜひ頭の片隅に置いておいてください。

保険の解約を近々お考えなら、まず今期の利益状況と加入保険の種類を確認して、税理士への相談を最優先に動くことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。