先日、ある社長からこんな連絡が来ました。「10年前に保険に入ったんですが、ずっとそのままにしてあって。60歳過ぎたし、そろそろ解約しようかと思って」。

何気ない相談のようでしたが、証券の数字を見た瞬間、少しヒヤッとしました。ピーク年齢をすでに3年過ぎていたのです。

法人保険には「旬」がある

多くの中小企業オーナーが加入している経営者保険や逓増定期保険には、解約返戻金が最も高くなる「ピーク年齢」があります。

商品や加入年齢によって異なりますが、60歳前後に設定されているケースが圧倒的に多いです。ピーク時の返戻率が80〜95%に達する商品も珍しくありません。

問題は、このピークを過ぎた後に起きることです。ピーク年齢を超えると、返戻率は毎年じわじわと下がっていきます。「年に数%ずつ」というペースに見えますが、保険金額が大きければ年間数百万円の差になる。5年放置すると1000万円以上目減りしていた、というケースは珍しくないのです。

「まだ大丈夫だろう」が一番危ない

返戻金が減っていることに気づかない社長が多い理由は、証券を「引き出しの奥にしまったまま」にしているからです。

毎月の保険料は経費として計上されているので、帳簿上は「順調に節税できている」ように見える。でも実態は、受け取れるはずだった返戻金が静かに消えていく。この損失は損益計算書に現れません。だから気づきにくいのです。

冒頭の社長の場合、ピーク時からの3年間で差額は約600万円。税引き後で考えると実質的な損失はさらに膨らみます。「保険のことは担当者に任せっきりだった」と、肩を落とした顔が今も印象に残っています。

見落としがちな「課税タイミング」の罠

解約のタイミングを考えるとき、もう一つ見落とされがちな問題があります。それが課税タイミングです。

法人保険を解約すると、返戻金は法人の「益金」として認識されます。そのまま利益として課税されるため、実効税率30〜35%で計算すると、1000万円の返戻金なら300〜350万円が税金で持っていかれる計算になります。

ここで重要になるのが、役員退職金との組み合わせです。退職金を支払う年は、その分だけ法人の利益が圧縮されます。そのタイミングで保険を解約すれば、返戻金による益金と退職金による損金がぶつかり合い、課税される利益を大幅に抑えられます。

逆に、退職金を支払わない年に解約してしまうと、返戻金の全額に法人税がかかってしまう。「保険で節税した意味が半分消えた」と後悔する社長を、私はこれまで何人も見てきました。退職金と保険解約は「同じ決算期」に合わせることが、節税の鉄則中の鉄則です。

今すぐ引き出しから保険証券を出してください

「うちの保険はまだ大丈夫だと思う」という方にこそ、今すぐ確認してほしいことがあります。

保険証券を開いたら、まず以下の3点を押さえてください。

  • 解約返戻率のピーク年齢(60歳か65歳か、あるいは既に過ぎているか)
  • 現在の解約返戻率(最新の数値は保険会社に問い合わせると正確です)
  • 役員の退職予定時期(何年後に引退するイメージか)

この3つが揃えば、「あと何年で解約すべきか」の目安が見えてきます。ピーク年齢まで5年以内に迫っているなら、退職スケジュールとの調整を今から始めておくことを強くお勧めします。

保険は「入ったら終わり」ではありません。出口戦略まで設計して、はじめて節税の道具として機能します。今日の夜にでも、引き出しの証券を一度開いてみてください。試算は専門家に任せるとして、まず現状を把握することが最初の一歩です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。