先日、製造業を経営されている社長から、ため息まじりにこんな話を聞きました。「保険を解約したら、税務申告のあとで税理士から『2000万近く税金がかかります』と言われて、頭が真っ白になりました」と。

積み立ててきたのは15年、総額8000万円。「将来の退職金代わりになる」と前の顧問税理士に勧められ、コツコツと法人保険を育ててきた社長です。それが、たった一つのタイミングのズレで、2000万円近い税負担に変わってしまいました。

解約返戻金は「丸ごと益金」になる

法人保険を解約すると、戻ってきたお金(解約返戻金)は、会社の収益として益金に計上されます。

たとえば8000万円積み立てた保険の解約返戻金が7500万円だったとすると、その7500万円がそのまま「その年の収益」として法人所得に上乗せされるわけです。「戻ってくるお金だから税金はかからないだろう」と思っている社長は多いのですが、実際にはそうではありません。

積み立てていた期間中、保険料の一部が損金として落とされてきた分は、解約時に「精算」として益金に戻ってくる仕組みになっています。いわば「税の繰り延べ」をしていたのが、解約と同時に清算される、という構造です。

その年、件の社長の会社は業績好調でした。そこに7500万円の解約益が加わったことで、課税所得が一気に跳ね上がり、余分な法人税が約2000万円に膨れ上がったのです。

鉄則は「退職金と同じ事業年度」

では、どうすれば良かったのか。答えはシンプルです。退職金を支払うのと同じ事業年度に解約する、これだけです。

退職金は「役員退職給与」として損金に計上できます。解約返戻金という益金と、退職金という損金を同じ期にぶつけることで、課税対象を大幅に圧縮できるわけです。

具体的な数字で見てみましょう。解約返戻金が7500万円あったとして、同じ事業年度に5000万円の退職金を支払えば、差し引きの益金増加は2500万円に抑えられます。何も対策しなければ7500万円に課税されるところを、法人税率30%で計算すると、約1500万円の節税になります。

件の社長が退職金を支払ったのは、解約の翌年でした。1年のズレが2000万円の代償になってしまいました。

顧問税理士が変わるとき、最も危ない

このような「タイミングのズレ」はなぜ起きるのでしょうか。最も多いケースは、顧問税理士が変わるタイミングです。

保険を設計した税理士と、解約を担当した税理士が違うと、出口戦略の引き継ぎが抜け落ちることがあります。新しい担当者が「解約して現金化しましょう」と提案したとき、「退職金はいつ払う予定ですか?」という確認が漏れてしまうのです。

また、「業績のいい年にキャッシュが必要だった」「社内の資金繰りで急いだ」という事情で、出口タイミングの検討が後回しになるケースも少なくありません。

今すぐ確認しておきたいこと

法人保険に入っている経営者の方は、以下の3点を今のうちに整理しておくことをおすすめします。

  • 現在の解約返戻金はいくらか(保険会社に問い合わせれば教えてもらえます)
  • 役員退任・引退の時期は大まかにいつごろか
  • 解約するとしたら、どの事業年度が最も税負担が少ないか

特に3点目は、1年のズレで数百万〜数千万円の差が生まれることがあります。退職時期の2〜3年前を目安に、税理士を交えて出口シミュレーションをしておくのが理想です。

法人保険は「どう積み立てるか」よりも、「どのタイミングで出口を設計するか」のほうが、税負担への影響がはるかに大きいものです。まだ出口の話を税理士としていないなら、次回の決算打ち合わせで、ぜひ議題に載せてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。