先日、創業20年目の社長からこんな相談を受けました。「来年引退しようと思って退職金を計算したら、思ったより全然少なくて……」。

よく話を聞いてみると、退職金の計算そのものには問題がなかったのですが、設計の段階でいくつかの「もったいない」が重なっていました。退職金は、受け取る直前ではなく、5年以上前からの仕込みで金額が決まるものです。今回はその設計術を3つのポイントに絞って解説します。


根拠書類なしの功績倍率は、税務調査で一発アウトになりかねない

役員退職金の計算式は「月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」です。この功績倍率、一般的に2〜3倍が相場と言われていますが、根拠書類がない会社が9割以上というのが現実です。

税務調査で「なぜ倍率3倍なのですか?」と聞かれたとき、「相場だから」では通りません。同業他社の退職金水準との比較資料、社内での役割や業績への貢献度の記録——こういった資料を事前に整備しておくだけで、否認リスクをぐっと抑えられます。

面倒に感じるかもしれませんが、一度作っておけば使い回せる書類です。今の段階から少しずつ整えておきましょう。


勤続20年の節目は、1年の差が数百万円の違いになる

退職所得控除の計算方法を知っていますか?勤続年数が20年以下の場合は1年あたり40万円の控除ですが、20年を超えると1年あたり70万円に跳ね上がります。

例えば、勤続20年ちょうどで退職すると控除額は800万円。でも勤続21年なら870万円。たった1年の違いで70万円も変わります。退職所得は課税所得が半分になる優遇税制があるため、この70万円の控除増加は実質的に数十万円の手取り差に直結します。

「来年でも再来年でもどっちでも」と思っている社長こそ、在任年数を確認してみてください。20年の節目前後に引退を計画しているなら、1〜2年ずらすだけで大きく変わる可能性があります。


退職直前の「急上げ」は最も危険。5年前からの計画が鉄則

ここが最も重要なポイントです。退職金の計算式を思い出してください。「月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」——この「月額報酬」というのは、一般的に退職時直前の報酬額が基準になります。

つまり、引退の5年前から月50万円の報酬を月150万円に段階的に引き上げていけば、退職金の計算額は最大3倍になり得ます。

ただし、ここに大きな落とし穴があります。退職直前に報酬を急激に引き上げると、税務調査で「退職金の水増し目的」と判断されて否認されるリスクがあるのです。急上げではなく、業績拡大や役割の変化に伴う自然な増額として、5年以上かけて段階的に上げていくのが王道の設計です。

報酬変更には定時株主総会での決議や議事録の整備も必要です。この辺りは税理士と連携しながら進めるのが安全です。


退職金設計は「引退の5年前」がスタートライン

退職金は、受け取るときに考えるのでは遅すぎます。今の役員報酬の水準、勤続年数の節目、功績倍率の根拠書類——この3つを今すぐ確認してみてください。

特に50代前半の社長は、「まだ先の話」と思わずに、今が仕込みのベストタイミングです。適切に設計すれば退職金は大きく変わります。顧問税理士と一度、退職金シミュレーションをしてみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。