先日、会社経営歴28年という製造業の社長から、こんな相談を受けました。\n\n「役員報酬を月250万にしているんだけど、なんか損している気がして……」\n\n月250万円、つまり年間3,000万円の役員報酬。一見、十分に豊かに見えます。でも手取りを計算してみると、思わず言葉に詰まります。\n\n## 毎年1,500万円が「消えている」現実\n\n役員報酬が年3,000万円になると、所得税と住民税を合わせた実効税率はおおよそ50%前後に達します。所得税の最高税率45%に住民税10%が加わるため、高所得帯では合計税率が55%近くになるケースも珍しくありません。\n\nつまり、3,000万円受け取っても、手元に残るのは1,500万円前後。残りはそのまま税金として国と自治体に渡っていく計算です。年間1,500万円、10年続ければ1億5,000万円——そう考えると、少し怖くなりませんか?\n\nこの話をすると「でも役員報酬は経費になるから、会社の法人税が減るじゃないですか」とおっしゃる社長も多い。確かにそのとおりです。ただ、引退後を視野に入れると、高い役員報酬には見えにくい”コスト”が潜んでいます。\n\n## 退職金で受け取ると「実効税率10%台」になることがある\n\n同じ3,000万円でも、退職金として受け取る場合は話がまったく変わります。\n\n退職金には「退職所得控除」という大きな非課税枠があります。勤続年数20年を超えると、1年ごとに70万円の控除が積み上がる仕組みです。勤続30年なら控除額は1,500万円超。さらに退職金は残りの金額を2分の1にしてから税率を計算する「1/2課税」の優遇もあります。\n\nたとえば勤続30年で退職金3,000万円を受け取る場合、試算はこうなります。\n\n- 退職所得控除:800万円+(30年-20年)×70万円=1,500万円\n- 課税対象額:(3,000万円-1,500万円)÷2=750万円\n- 概算税額:所得税+住民税で150〜170万円程度\n\n3,000万円に対して実効税率は5〜6%程度。役員報酬として毎年受け取った場合の50%近くと比べると、その差は文字どおり歴然です。\n\n## 「高い役員報酬」が退職金を削っている\n\nここで気づいてほしいのが、役員報酬と退職金はトレードオフの関係にあるという点です。\n\n会社の利益から役員報酬を高く設定すると、法人内部に利益が残りません。退職金の原資は会社の内部留保や積み立てから出るのが基本ですから、毎年大きく引き出し続けていると、いざ引退というときに「退職金の財源がない」という状況に陥りやすくなります。\n\n小規模企業共済や生命保険を活用して退職金原資を作る方法もありますが、それもあくまで「計画的に設計していた場合」の話です。何も考えずに役員報酬を高く設定し続けてきた社長が、引退間際になって慌てるケースは珍しくありません。\n\n## 「今のうちに」設計する価値がある\n\n役員報酬を下げれば手取りが減ります。それは事実です。ただし、引退後の税コストまで含めた「生涯手取り」で考えると、退職金プランと組み合わせることで、トータルで有利になるケースは十分にあります。\n\nひとつ注意したいのが、役員報酬は期の途中で気軽に変更できないという点です。税法上、役員報酬は原則として事業年度開始から3ヶ月以内に決定し、その後は固定(定期同額給与)にする必要があります。「来月から下げよう」と思っても、すぐには動けない仕組みです。\n\nだからこそ、引退から逆算した設計を「今」始めることが大切です。60歳を過ぎてから考え始めても、選択肢はどんどん狭くなります。\n\n---\n\n役員報酬の設定を「ずっとこれでやってきた」という理由だけで続けているなら、一度、税理士に引退後のキャッシュフローシミュレーションを依頼してみてください。数字を並べるだけで、見える景色がガラッと変わることがあります。\n\n※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。