先日、製造業を営む田中社長(仮名)から、こんな連絡が入りました。
「2億円の物件を法人で買ったのに、相続税が3000万円以上増えてしまった。どういうことですか?」
電話口の声は、明らかに動揺していました。
「路線価評価で節税できる」は本当か
田中社長が法人で収益不動産を購入したのは、相続対策が目的でした。「法人名義にしておけば、株式の評価に組み込まれて路線価評価になる。相続税が下がる」——顧問税理士ではない知人からそう聞き、2億円の物件を法人名義で取得したのです。
考え方自体は間違っていません。不動産は時価より路線価のほうが低く評価されることが多く、法人の純資産評価に組み込むことで相続税負担を圧縮できるケースは確かに存在します。
しかし田中社長には、致命的な盲点がありました。
購入からわずか2年後に相続が発生した
物件を取得してから2年後、田中社長のお父様が急逝されました。想定外のタイミングでした。
ここで効いてくるのが、財産評価基本通達の「3年以内取得ルール」です。
法人が課税時期(相続発生日)の前3年以内に取得した不動産は、路線価ではなく時価評価になります。つまり2億円の物件は、路線価に引き直されることなく、2億円そのままで株式の純資産評価に反映されてしまったのです。
路線価との差額分だけ、株式評価が高くなる。それが3000万円超の追加税負担に膨らんだ、というわけです。
「もし3年待ってから相続が発生していたら…」と田中社長はおっしゃっていました。もちろん、相続のタイミングは選べません。だからこそ、購入前にこのリスクを把握しておくことが大切なのです。
法人不動産には、実は5つのリスクがある
田中社長のケースは「3年以内取得」の罠でしたが、法人で不動産を持つことのリスクはほかにも潜んでいます。
① 3年以内取得による時価評価(田中社長のケース) すでに説明したとおりです。購入後3年間は「相続が起きると節税効果がゼロになる」リスクを抱えています。
② 消費税還付の否認 法人で不動産を購入し、「消費税還付を受ける」スキームが以前は有効でした。しかし税制改正で封じられており、今もこれを狙うと追徴のリスクがあります。
③ 含み益への37%法人税相当控除 法人で不動産を持ち続けると、将来売却や相続時に含み益が37%の控除対象となります。「節税になる」と言われますが、逆に言えばそれだけ課税の余地があるということでもあります。
④ 役員社宅の家賃計算ミス 社長が自社物件を社宅として使う場合、「適正家賃」の計算方法が厳格に定められています。計算を誤ると、差額が役員報酬と認定され、源泉所得税の追徴を受けることがあります。
⑤ 修繕費と資本的支出の判定ミス 建物の修繕をした際、「修繕費」として全額損金にできるか、「資本的支出」として減価償却するかの判定を誤ると、税務調査で否認されます。判定基準は金額や工事内容によって異なるため、都度確認が必要です。
「節税になると聞いた」の前に、必ず確認を
法人不動産そのものが悪いわけではありません。しっかり設計すれば、相続対策・節税・資産形成の三拍子そろったスキームになります。
問題は、「誰かに聞いた」「なんとなく有利そう」という理由で、リスクを把握しないまま購入してしまうことです。田中社長のように、購入後に「こんな制度があったのか」と知っても、時計の針は戻せません。
2億円の不動産購入を決断するのに、半年も1年もかけて検討するのは当然です。それなのに税務リスクの確認を後回しにしてしまう——これが「法人不動産あるある」の最大の落とし穴です。
法人名義での不動産購入を検討しているなら、契約書にハンコを押す前に、必ず税理士に相談してください。5つのリスクをひとつひとつ確認するだけで、田中社長のような後悔を避けることができます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。