先日、長年経営してきた会社を後継者に譲った60代の社長からこんな相談を受けました。「まとまった退職金が入ったので、そろそろ運用を始めようと思っているんですが、何かおすすめはありますか?」
引退を機にまとまった資金を手にして、「さて、どう増やそうか」と考えるのは自然なことです。でも、ここに大きな落とし穴があります。現役時代に経営判断を磨いてきた社長ほど、「自分なら勝てる」という自信が裏目に出やすいのです。
今回は、引退後の社長が退職金を溶かしてしまう投資失敗のランキングを、実際の相談事例をもとにお伝えします。
3位:FX・暗号資産への一点集中
「現役時代の決断力があれば、FXや仮想通貨でも勝てるはずだ」と考えて、退職金の1,000万円を一気に投じる——そういうケースは、残念ながら珍しくありません。半年後には数百万円が消えていた、という話を複数の方から聞いています。
FXや暗号資産の難しさは、相手が「スピードと情報量で圧倒的に有利なプロ」だという点にあります。24時間365日、機関投資家や専業トレーダーが動かす市場で、週に数時間勉強した個人が安定して勝ち続けるのは非常に厳しい。
引退して時間ができた→じっくり勉強できる→勝てる、という発想は一見筋が通っているように見えます。でも、時間があることで相場に張り付きすぎ、感情的な売買を繰り返してしまうリスクも高まります。「暇」と「投資センス」は別物です。
2位:銀行・証券が勧める仕組債・外貨建て保険
こちらは少し手強い相手です。銀行や証券の担当者から「安全で安定した商品」として勧められることが多く、つい信頼してしまいがちです。
仕組債は、株価や為替が一定水準を下回ると元本が30〜50%毀損するような設計になっているものがあります。外貨建て保険も為替リスクが直撃するため、「円高のタイミングで解約したら思ったより少ない」ということが起きます。
そして最大の問題は、途中解約がほぼできない点です。「やっぱり違う」と気づいたときには、解約損が大きくて身動きが取れない状態になっていることも。「老後の安心のために」という言葉は魅力的ですが、商品の仕組みを自分でも確認する習慣が大切です。
1位(意外!):ワンルームマンション投資
ここが一番意外かもしれません。「節税になる不動産投資」と聞いて、引退後に始める社長は実は多いのです。でも、ここには致命的な誤解があります。
ワンルームマンション投資の「節税効果」は、役員報酬がある現役の社長向けの話です。現役時代は、不動産運用の赤字を高額な役員報酬と相殺することで、所得税・住民税の負担を大きく下げられました。
しかし、引退して報酬がゼロになった後は話が変わります。相殺できる所得がなければ、節税効果はほぼ消えてしまいます。残るのは、空室リスク・管理費・修繕積立金・固定資産税……気づけば毎月数万円の持ち出しになっているケースも珍しくありません。
「現役時代に節税目的で買った物件が、引退後は重荷になっている」という声は、相談の場でよく耳にします。
退職金は、何十年もかけて積み上げてきた大切な資産です。増やすことを考える前に、まず「溶かさない」ことを最優先に据えていただければと思います。
投資を始める前に「この商品は、報酬ゼロの自分の状況に本当に合っているか?」を、信頼できる専門家と一度立ち止まって確認してみてください。現役時代の成功体験が、引退後の判断を狂わせることがあるのがこのテーマの難しさです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。