先日、ある税理士仲間からこんな話を聞きました。「不動産を3棟持っていた製造業の社長が、7年間まったく問題なく経営していたのに、突然2000万円超の追徴を受けた」と。

詳しく聞いてみると、問題は「知らなかった」ことではなく「知っているつもりだった」ことにありました。

法人で不動産を持つことの落とし穴

A社長は年商3億円の製造業を営みながら、会社名義で収益不動産を3棟保有していました。毎月の賃料収入が入り、修繕費や管理費を経費に落として、節税効果も得られていた。一見、教科書どおりの法人活用です。

ところが7年後、税務調査官が会社の帳簿を開いたとき、最初に目をつけたのは「修繕費」の欄でした。

「修繕費」と「資本的支出」、どこで判断が分かれるか

A社長は数年前、所有物件の外壁全面を塗り直し、その費用300万円を全額「修繕費」として計上していました。

気持ちはわかります。「壊れたところを直した」という感覚ですから、修繕費で落としたくなるのは自然なことです。しかし税務署の見方は違います。

外壁の全面塗装は、建物の価値を「回復」させるだけでなく「向上」させる工事だと判定されます。これが「資本的支出」と呼ばれるもので、一度に経費化できず、建物と同様に減価償却しなければなりません。

一般的な判断の目安として、工事費が60万円を超える場合は特に厳しく見られます。「元通りにした」のか「グレードアップした」のか、税務署はここを細かく問いただしてきます。

A社長の場合、3年分をさかのぼって否認されました。修繕費として一括計上していた分が資本的支出に組み替えられ、減価償却の枠内でしか認められない。その差額分が課税所得に加算されていきました。

家族が使う部屋を「経費」にしていた

さらに痛かったのが、もう一つの否認です。

3棟のうち1棟に、A社長の母親が住んでいました。賃料は法人に振り込まれていましたが、実態として家族が居住しているその部屋の維持管理費を、会社の経費として計上していたのです。

税務調査官はここに「仮装・隠蔽」の意図があると認定しました。個人的な支出を法人経費に混ぜ込んでいた、という解釈です。

こうなると通常の追徴課税では済みません。**重加算税35%**が加算されます。本来の不足税額に35%上乗せされるわけですから、ダメージは一気に膨らみます。

追徴2000万円の内訳

最終的にA社長が受けた追徴課税の内訳は、おおよそこのようなものでした。

  • 修繕費の資本的支出組み替えによる法人税・消費税の不足分
  • 家族利用分経費の否認による追加課税
  • 重加算税(否認額の35%)
  • 延滞税(過去にさかのぼった年数分)

合計で2000万円を超えました。7年間かけて積み上げた節税効果が、一度の調査で吹き飛んだどころか、手元の現金まで持っていかれる結果になりました。

不動産経費で特に注意すべき3つのポイント

A社長のケースから学べることを整理すると、次の3点に集約されます。

ひとつ目は工事費用の判定です。60万円以上の工事は、修繕費か資本的支出かの判断を必ず税理士に確認してください。「直した感覚」と「税法の判断」は一致しないことが多いです。

ふたつ目は個人・法人の用途の混在です。法人名義の不動産に家族や役員個人が住んでいる場合、その部屋に関わる経費を法人で落とすのは非常にリスクが高い。たとえ賃料を支払っていても、細部で個人利用が混入すると否認の対象になります。

三つ目は7年という調査期間です。通常の更正は5年ですが、「仮装・隠蔽」と認定されると7年前まで調査が及びます。A社長がまさにそのケースでした。

法人で不動産を持つなら「記録」が命綱

不動産は法人節税の強力な手段ですが、それゆえに税務署の目も厳しい。特に個人の資産と法人の資産が絡み合う構造は、後から「これはどちらの支出ですか」と問われたときに説明できる状態にしておくことが不可欠です。

工事のたびに業者の見積もりと請求書を保管し、修繕か資本的支出かの判断を記録として残しておく。個人利用と法人利用が混在している不動産は、どの費用が法人の事業と関係するかを明確に区分しておく。こうした地道な積み重ねが、調査が入ったときの「盾」になります。

会社名義で不動産を保有しているなら、今期の申告前に一度、顧問税理士と一緒に修繕費の計上方法と、個人・法人の費用区分を見直しておくことを強くおすすめします。2000万円の追徴は、他人事ではありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。