先日、こんな言葉を聞かせてもらいました。「引退の2年前まで、ちゃんと経費を見直したことがなかった。もっと早く気づいていれば」——少し悔しそうに、でも穏やかに笑いながらそう話してくれたのは、62歳の製造業オーナー、田中社長(仮名)でした。
製造業を30年以上経営し、いよいよ会社を次世代に引き継ごうというタイミングで、顧問税理士と腰を据えて経費を洗い直したそうです。すると「合法的に計上できるのに、ずっと放置していた経費」が次々と見つかってきた。
その結果、引退前の2年間で約500万円の経費を追加計上。実効税率34%で計算すると、節税額は約170万円になりました。「その分が手元に残ったのは大きかった」と、田中社長はおっしゃっていました。
田中社長が使った5つの合法経費
活用した項目は、どれも特別なものではありません。「知っているかどうか」と「きちんと設計されているかどうか」、ただそれだけの差で決まるものばかりです。
社宅の借り上げは、役員報酬をそのままもらうより税負担が軽くなる方法です。会社が物件を借り上げ、税法の計算式に基づいた賃貸料相当額だけを役員が個人負担する。差額は会社の損金になり、個人の所得税・社会保険料の対象にもなりません。給与として受け取るより、圧倒的に手元に残ります。
旅費規程に基づく出張日当は、整備されていない会社が驚くほど多い項目です。規程を作るだけで、出張時の日当を非課税で支給できるようになります。給与と違って社会保険料の対象外なので、コンスタントに活用すれば年間でかなりの金額になります。
役員研修費は、業務に関連するセミナーや書籍代が対象です。「経営者としての学び」は範囲が広く認められますが、業務との関連性を説明できることが前提。領収書に目的のメモを添える習慣が大切です。
30万円未満の設備投資は、中小企業の少額減価償却特例を活用します。通常なら複数年に分けるところを、購入した期に全額経費にできます(年間合計300万円まで)。引退前に「どうせ近いうちに買い替えるもの」があれば、このタイミングで動くのは合理的な判断です。
1人1万円以下の飲食交際費は、交際費の損金算入制限を受けない条件を満たすための設計です。参加者の氏名・所属・目的を記録に残し、1人あたりの金額を1万円以下に収める。この条件を押さえておくだけで、記録の手間と引き換えに交際費の扱いが大きく変わります。
経費の見直しは「出口戦略」の入り口
田中社長が「早く気づいてよかった」と言ったのは、経費だけの話ではありませんでした。退職金の設計、相続対策、自社株の評価引き下げ——これらと組み合わせることで、引退後に手元に残るお金の総額が根本から変わってくるからです。
経費の最適化は、出口戦略全体のほんの一部に過ぎません。ただ、「取り組みやすくて、効果が数字で見えやすい」という意味では、出口対策を考え始めるきっかけとして最適とも言えます。
引退まで2〜3年あるなら、まだ十分に間に合います。旅費規程が整備されているか、社宅の活用を検討したことがあるか、設備の買い替えに税務的な視点が入っているか——今期中に顧問税理士と「経費の棚卸し」をしてみると、田中社長のような発見があるかもしれません。
とくに旅費規程は、整備するだけで効果が出る即効性の高い対策です。まだ手をつけていない会社は、ぜひ今期中に一度見直してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。