先日、ある社長から相談を受けました。

「保険には入ってるんですよ。3,000万の死亡保障があるので、家族は大丈夫かと思っていて」

その一言を聞いたとき、私は思わず聞き返しました。「受取人は、誰に設定していますか?」

しばらく沈黙があって、「法人にしていたような気がします」と。

これ、かなりよくある話です。

生命保険には、相続税がかからない枠がある

まず知っておいてほしいのは、生命保険には「相続税の非課税枠」という制度があるということです。

計算式はシンプルで、500万円 × 法定相続人の数

たとえば相続人が配偶者と子ども2人の合計3人なら、500万円 × 3人 = 1,500万円が相続税の計算対象から外れます。3,000万円の保険金が出たとしても、そのうち1,500万円には最初から相続税がかかりません。

相続税の実効税率が仮に30%なら、この枠を活用するだけで約450万円の節税になります。決して小さくない金額です。

受取人が相続人以外だと、枠がゼロになる

ここが落とし穴です。この非課税枠は、受取人が「法定相続人」である場合にしか使えません

受取人が法人(会社)のケース、子の配偶者(いわゆるお嫁さん・お婿さん)のケース、内縁の妻のケース。こうした設定だと、保険金がいくら大きくても非課税枠はゼロです。3,000万円まるごとが相続税の課税対象になってしまいます。

冒頭の社長の場合、法人受取に設定していたため、退職金の代わりに会社へ入る仕組みになっていました。この設計自体が間違いとは言いませんが、少なくとも「相続税の非課税枠」はまったく活用できていない状態でした。

受取人を変えるだけで、1,500万円が守られる

もし相続人(配偶者や子ども)を受取人にしていれば、3,000万円のうち1,500万円は相続税の対象外になります。

保険料は同じ。保障内容も同じ。変えるのは受取人の名前だけです。

それだけで課税対象が半分になる可能性がある。受取人の変更は保険会社に申請書類を提出するだけで完結し、保険料にも保障内容にも原則影響しません。

もちろん、保険の目的によっては法人受取のほうが合理的なこともあります。退職金の原資として会社に入れる設計なら、それはそれで正しい判断です。どちらが正解かは、保険の目的と相続対策のバランスで決まります。

「加入している」という事実だけで安心していませんか?

多くの社長が「保険には入っている」という事実に安心しています。でも実際に受取人を確認してみると、深く考えていなかったというケースは思った以上に多い。

今すぐ保険証券を確認できる方は、受取人の欄を見てください。相続人の名前になっていますか?

法人受取になっていたり、特定の人物名が書いてあったりする場合は、その人が本当に法定相続人かどうか確認することが大切です。

非課税枠を最大限に使う設計の考え方

少し踏み込んだ話をすると、非課税枠を使い切るには保険金額の設計も重要です。

相続人が3人なら非課税枠は1,500万円。保険金がそれを超えた分は課税されます。逆に言えば、相続人の数を確認してから「いくら保険に入るべきか」を逆算することができます。

非課税枠いっぱいに設計することで相続税の圧縮効果を最大化できますが、保険料が増えすぎると会社のキャッシュフローを圧迫します。税理士と会社の資金繰りを見ながら、バランスよく設計するのがポイントです。

まず受取人を確認することから始める

相続税対策は複雑に見えますが、入口はシンプルです。今加入している保険の受取人が誰になっているかを確認すること、それだけです。

まだ確認できていないなら、今期中に一度、税理士や保険担当者と一緒に証券を見直してみることをおすすめします。受取人の設定を変えるだけで1,500万円が守られるなら、動かない理由はないはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。