先日、ある経営者からこんな話を聞きました。「父が亡くなって3年。相続税の申告も済ませて、ようやく落ち着いたと思っていたのに、税務署から調査の通知が来た」と。

その後の顛末を聞いて、思わず背筋が冷えました。

申告から2年後に届いた「調査通知」

田中社長(仮名)は先代の父から会社を引き継いだ、製造業を営む50代の経営者です。3年前に父が他界し、相続手続きも無事に完了。税理士にも確認してもらい、これで一段落だと安心していました。

ところが相続から約2年後、突然、税務署の調査が入ります。

調査官が目をつけたのは、田中社長の名義で開設されていた複数の銀行口座でした。口座名義は確かに息子である田中社長。しかし通帳も印鑑も、すべて父親が管理していたのです。

「これは息子への贈与ではなく、お父様の財産です」

そう判断された金額は、約7000万円。申告漏れとして指摘されました。

なぜ「自分名義の口座」が問題になるのか

相続税の世界に「名義預金」という概念があります。預金の名義が子や孫であっても、実際にお金を動かしていたのが亡くなった方であれば、その財産は「亡くなった方のもの」として相続財産に含めるというルールです。

判断の基準は、主に次の点です。通帳・印鑑を誰が管理していたか。名義人がその口座の存在を知っていたか。名義人が自由に引き出せる状態だったか。

田中社長のケースでは、通帳も印鑑も父が管理しており、息子は「そんな口座があるとは知らなかった」という状態でした。これが典型的な名義預金と判断されてしまったのです。

名義預金は、相続税の税務調査で最も多く指摘される項目のひとつです。「まさかうちが」と思っているご家庭ほど、盲点になりやすいのが怖いところです。

2000万円を超えた追徴の内訳

7000万円の申告漏れに対して課される相続税は、今回のケースで約1500万円。これだけでも十分な打撃ですが、問題はここからです。

申告漏れと判断された場合、重加算税が課されます。税率は本税の35%。1500万円の35%は525万円です。さらに申告期限からの日数に応じて延滞税も加算されます。相続から2年後の調査であれば、延滞税だけで数十万円になります。

合計すると追徴総額は2000万円超。田中社長は「申告したつもりで、何も悪いことはしていない」という状況でこれだけの請求を受けることになりました。

今すぐ確認してほしいこと

「うちは大丈夫」と思っているなら、ぜひ今日中に確認してみてください。

親や祖父母が、あなたや配偶者・お子さんの名義で積み立てていた口座はありませんか。特に古くからある定期預金や、ゆうちょの通常貯金に多いパターンです。

贈与のつもりで子ども名義にした口座も、贈与契約書がなく通帳・印鑑を渡していなければ名義預金とみなされるリスクがあります。毎年の暦年贈与も、振込の証拠や贈与契約の記録がなければ、後から否認されることがあります。

相続税は「申告後」も油断できない

相続税の時効は原則5年、悪質な場合は7年です。申告が終わってからも数年間は調査の対象になり得ます。田中社長のように「一件落着」と安心した矢先に調査通知が届くケースは、決して珍しくありません。

名義預金の解消策は複数あります。贈与として整理する、名義を元に戻す、相続前から対策を打つなど、状況によって最適解は異なります。「とりあえず名義を変えればいい」という判断が、かえって問題を複雑にすることもあります。

相続が発生する前に、財産の実態を一度棚卸しして、専門家に確認しておくことが、2000万円の追徴を防ぐ最短ルートだと思います。思い当たる口座が一つでもあるなら、今日が動くタイミングです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。