先日、ある社長からこんな連絡が入りました。「決算が終わったので、会社の余剰資金で株を買い始めたんですが、何か問題ありますか?」
聞けば、1億円ほどを証券口座に移して運用を始めたとのこと。節税意識の高い経営者が「お金を遊ばせておくのはもったいない」と考えた結果です。気持ちはよくわかります。
ただ、正直に言うと、その瞬間、私は少し心配になりました。
税務署は投資実態をすべて把握している
法人が証券会社に口座を開いて投資を行うと、証券会社から税務署へ「支払調書」が自動的に提出されます。
個人の確定申告と同じ仕組みです。社長が「こっそりやっている」つもりでも、税務署は売買実績や残高をほぼリアルタイムで把握できる状態にあります。特に1億円規模の取引は、自然と「資産運用を行っている法人」のリストに上がってきます。
そこが税務調査のきっかけになりやすい。これが現実です。
最大の落とし穴は「評価損」の処理
投資自体を禁じる法律はありません。問題は、損失が出たときの処理にあります。
株式の評価損を損金(経費)として計上するには、「回復の見込みがない」と客観的に証明できることが要件です。一時的な株価下落では、原則として認められません。
たとえば、保有銘柄が50%下落していても、「その会社の業績は回復軌道にある」と税務署に判断されれば、評価損の計上は全額否認されます。3,000万円の評価損を計上していた法人が、税務調査で全額否認され、追徴課税が2,000万円を超えたケースは実際に起きています。
節税のつもりが、逆に多額の追加納税を迫られる——こういった事例が後を絶ちません。
投資を始める前に整えておく3つのこと
こうした事態を防ぐために、投資開始前に準備しておきたいことが3つあります。
1. 定款に投資業務を明記する
法人が投資を行う場合、会社の定款に「有価証券の取得および運用」といった文言を加えておくのが基本です。定款に記載のない事業を行っていると、それ自体が問題視されることがあります。設立時の定款をそのまま使い続けている会社は、一度確認してみてください。
2. 損失計上の根拠書類を整える
評価損を計上するときは、なぜ「回復見込みなし」と判断できるかを示す書類が必要です。対象企業の財務状況の分析や業界レポート、専門家の意見書など、根拠となる資料を事前に揃えておきましょう。「なんとなく下がっているから」では、税務調査では通用しません。
3. 評価損は必ず税理士に相談してから計上する
これが最も重要です。「金額が大きければ認められる」わけではなく、「要件を満たしているかどうか」が全てです。計上した後から否認されるより、計上前に確認するほうがリスクを大幅に抑えられます。決算直前の駆け込み相談では間に合わないケースもあるので、動く前に一声かけることを習慣にしてください。
投資は「会社のお金」だからこそ慎重に
法人に余剰資金があること自体は、経営が安定している証拠です。それを運用に回したいという判断は、理に適っています。
ただ、「会社のお金で投資する」という行為には、個人投資とは異なる税務リスクが伴います。規模が大きくなればなるほど、税務調査の対象として選ばれる可能性も上がります。
1億円の投資を始める前に、30分だけ顧問税理士に相談を入れてみてください。その一声が、後悔のない運用につながります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。