先日、製造業を営む62歳の社長からこんな話を聞きました。
「顧問税理士に相続税の概算を出してもらったら、2億円を超えるって言われて、正直、頭が真っ白になりましたよ」
資産総額は約8億円。土地、建物、自社株、金融資産。長年かけて積み上げてきた財産が、いざ相続となると相当な額が税金で持っていかれる計算になっていたわけです。ただ、その話には続きがありました。
保険1本で、課税対象が3,000万円減った
その顧問税理士が提案したのが、生命保険を活用した相続税対策でした。
カギになるのが「生命保険の非課税枠」という制度です。受取人が相続人である死亡保険金には、500万円×法定相続人の人数まで相続税がかからないというルールがあります。教科書的な話ではなく、今でも使える実務上の制度です。
Aさんの法定相続人は、奥様と5人のお子さんの合計6人。計算すると、500万円×6人=3,000万円が非課税で受け取れる枠になります。この枠を使い切る形で保険を設計し直した結果、課税対象となる財産を3,000万円圧縮することができました。
相続税の実効税率が高いケースでは、3,000万円の圧縮が税額にして数百万円から1,000万円超の差につながることもあります。保険1本の設計変更が、これだけの効果をもたらすわけです。
なぜ「保険料を払う」ことが節税になるのか
「保険料を払うのに、なぜ節税になるの?」という疑問はよく出ます。
ここがポイントなのですが、手元にある現金をそのまま持っていると「相続財産」としてまるごと課税対象になります。ところが、その現金を一時払い終身保険などの生命保険料として支払い、死亡保険金として受け取る形に変えると、非課税枠が適用されます。つまり、財産の「形を変える」ことで、課税される部分を減らせるわけです。
お金が消えるわけではなく、受け取り方を変える——そのシンプルな発想が節税の本質です。
もう一つ見逃せないメリットがあります。現金や不動産は相続が発生すると遺産分割協議が必要になりますが、死亡保険金は受取人が直接受け取れます。相続手続きが長引く中でも、生活費や納税資金として保険金をすぐ使えるという実用的な側面も、経営者家族には大きな安心材料になります。
効果を左右する「設計」と「タイミング」
ただし、保険なら何でも良いわけではありません。
保険の種類、加入タイミング、受取人の設定、保険金額——これらの設計次第で効果は大きく変わります。健康上の問題があると加入できる保険が限られることもありますし、解約返戻金の水準も商品によってまちまちです。
また、過去には特定の節税保険が税制改正で封じられたケースもありました。「流行りの保険スキーム」に乗っかるのではなく、税理士と連携しながら長期的な視点で設計することが重要です。
まず「自分の相続人数」を数えるところから
相続税対策は難しく聞こえますが、第一歩は意外とシンプルです。
自分の法定相続人が何人いるか——それだけ把握すれば、使える非課税枠の上限がすぐわかります。
| 法定相続人数 | 生命保険の非課税枠上限 |
|---|---|
| 2人(配偶者+子1人) | 1,000万円 |
| 3人(配偶者+子2人) | 1,500万円 |
| 4人(配偶者+子3人) | 2,000万円 |
| 6人(配偶者+子5人) | 3,000万円 |
次に、自分の財産総額を大まかに把握する。土地・建物の評価額、金融資産、自社株——これらを合計して現状の相続税額を概算するだけで、どれだけの対策余地があるかが見えてきます。
多くの経営者が「相続はまだ先の話」と先送りにします。ただ、保険は健康状態によって加入できなくなることがありますし、加入から一定期間が経過しないと節税効果が薄れる商品もあります。「対策できるタイミング」は、思っているより短いことがほとんどです。
まだ相続税の試算を依頼したことがないなら、今期中に顧問税理士に概算を出してもらうことをおすすめします。数字が出れば、具体的な話が一気に進みます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。