先日、製造業を営む65歳の社長からこんな相談がありました。
「あと2〜3年で引退を考えているんだけど、なんか損している気がして。でも何をやればいいのかわからなくて」
話を聞いてみると、自宅は個人名義のまま、出張しても日当はゼロ、設備の更新は「引退後に後継者が考えればいい」と先送りにしている。
これは本当にもったいない状況です。引退前の数年間は、経費を戦略的に使い切る「最後のゴールデンタイム」でもあるんです。今回は、引退を見据えた社長にぜひ知っておいてほしい節税経費ランキングをお伝えします。
第3位:役員社宅|自宅の家賃を法人経費に変える
まず役員社宅のしくみから説明します。社長が住んでいる自宅(賃貸でも持ち家でも)を、法人が借り上げて社宅として貸与する方法です。
ポイントになるのが、国税庁の通達に定められた「賃貸料相当額」の計算式です。この算式で求めた金額を超える家賃部分を法人が負担すると、その差額を全額、法人の経費にできます。
たとえば月家賃20万円の賃貸マンションで、賃貸料相当額が3万円と計算された場合、差額の17万円が法人経費。年間で204万円になります。実効税率を約33%とすると、年間で約67万円の節税効果です。
今まで個人の手取りから支払っていた家賃が、会社の経費に変わるわけです。引退前は役員報酬が高い状態を維持しているケースが多いので、このタイミングに社宅を導入すると節税効果はさらに大きくなります。
賃貸か持ち家かで計算方法が変わります。賃貸は比較的シンプルですが、持ち家の場合は固定資産税の評価額などを使った計算が必要になるため、税理士に確認してから進めるのが安心です。
第2位:出張日当|旅費規程さえあれば年100万円超も非課税
中小企業の社長が意外と活用できていないのが、出張日当です。
会社に旅費規程(社内規程)があれば、日当を社長に非課税で支給できます。役職や出張先によって金額は変わりますが、社長であれば1日2〜3万円の日当を設定することは十分現実的です。
仮に年間50回の出張で日当を2万円とすると、年間100万円が法人経費になります。しかも社長個人の手取りは増えますが、給与と違って所得税も社会保険料も発生しない。会社にとっても、個人にとっても、二重においしいしくみです。
「そんなに出張しない」という方もいると思いますが、取引先への訪問、金融機関との打ち合わせ、グループ会社間の移動なども旅費規程に基づいて日当を支給できます。日常業務を振り返ると、思ったより回数は積み上がるものです。
旅費規程の雛形は税理士事務所や顧問先の社労士から入手できます。まだ整備していないなら、今期中に作成しておくのが断然おすすめです。
第1位:引退前の設備・研修投資|30万円未満は即全額経費
ランキング1位は、やや意外かもしれません。「設備や研修への先行投資」です。
中小企業には「少額減価償却資産の特例」という制度があります。取得価額30万円未満のパソコン・ソフトウェア・事務機器などを購入した場合、その年度に全額を経費計上できるというものです(1事業年度あたり300万円が上限・2028年3月末まで)。
引退後に後継者に任せようと先送りにしていたPC入れ替えや業務システムの導入、社員研修への投資など、引退前にまとめて実行すれば、その期の利益を大きく圧縮できます。
さらに発展させると、役員退職金との組み合わせが非常に強力です。引退前は利益を積み上げながら退職金の原資をつくり、最後の数年で設備投資と退職金の両方を一気に使う、という二段構えの戦略です。
退職金には「勤続年数×適正倍率」という基準があり、長く勤めていた社長ほど非課税で受け取れる金額が大きくなります。設備投資で利益を削りながら、退職金で個人の手取りを厚くする。このコンビネーションは、引退前節税の中で最も効果の大きい戦略と言っていいと思います。
今期動かないと、あとから取り返せない
役員社宅、出張日当、設備・研修投資の3つを組み合わせれば、年間で数百万円規模の節税効果が現実的に見えてきます。
よくあるのが「引退後にゆっくり考えよう」という先送りです。でも引退後は役員報酬もなく、法人を通じた節税の選択肢も大きく狭まります。今の立場にいる今だからこそできることが、たくさんあります。
まだ旅費規程を整えていないなら、今期中に作成しておくのがおすすめです。役員社宅も、来期の更新タイミングで切り替えを検討するのが現実的です。まずは顧問税理士に「引退前の節税、整理したい」と一声かけてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。