「来期で引退しようと思っているんだけど、なんか節税でやり残したことがある気がして…」
先日、製造業を30年経営してきた60代の社長からこんな相談を受けました。後継者への引き継ぎもほぼ完了しており、あとは気持ちよく退くだけ——という状況。でも、「最後の仕上げ」として経費の整理が気になっていたそうです。
引退が決まると、どうしても「節税より引き継ぎ」に意識が向きがちです。でも、これが落とし穴。引退前は使える経費の選択肢が意外と多く、使い残したまま辞めてしまうと「あのとき動けばよかった」と後悔するケースが少なくありません。
今回は、引退を控えた社長が最後に確認しておきたい合法経費TOP5をランキング形式でご紹介します。
第5位:修繕費・設備メンテナンス
引退前に会社の資産をきれいな状態で引き継ぎたい——そう思う社長は多いはず。このタイミングで建物の外壁塗装やエアコン・電気設備のメンテナンスをまとめて実施すると、修繕費として全額経費に落とせます。
ポイントは「資産の価値を高める改良工事」ではなく、「現状回復・維持のための修繕」であること。両者の区分けは税務署もチェックするポイントなので、工事前に顧問税理士に確認しておくと安心です。
後継者へのプレゼントを兼ねた節税、という発想で計画してみてください。
第4位:研修・セミナー・書籍費
引退直前まで、役員・従業員の研修費は立派な経費です。「もう辞めるのに研修費なんて」と遠慮する必要はありません。
後継者のビジネススクール受講費、経営幹部のマネジメント研修、業務に必要な資格取得費用——業務関連性があれば経費として認められます。引退前に集中して人材育成に投資し、会社の地力を高めながら節税する。次世代へのバトンとしても意義のある使い方です。
第3位:少額備品(30万円未満の即時償却)
中小企業には「取得価額30万円未満の備品なら、購入したその期に全額経費化できる」という特例があります。この制度が2026年3月末まで延長されました。
通常、高額の備品は複数年にわたって減価償却するのが原則です。ところがこの特例を使えば、パソコン、プリンター、スキャナー、業務用カメラなど30万円未満の備品を購入した期に一括で費用処理できます。
引退を控えているなら、後継者が使う備品を今期中にまとめて買い揃えておくのが合理的な判断です。20万円のノートPCを3台購入すれば、それだけで60万円が今期の経費になります。年間合計300万円が上限ですが、うまく活用してください。
第2位:交際費(1人1万円以下の飲食費)
2024年度税制改正で、交際費のルールが変わりました。1人あたり1万円以下の飲食費なら、全額損金として処理できるようになったのです(改正前は5,000円以下)。
引退を前にした社長にとって、これは「引退挨拶回り」に使い倒せる制度です。30年お世話になった取引先、金融機関の担当者、業界の仲間たち——「最後のご挨拶」と言いながら食事の席を設けることで、人間関係を締めくくりながら経費も消化できます。
4人で食事しても1人1万円以内ならセーフ。無理に高額な接待にする必要はなく、気軽なランチや夕食で十分です。この機会に積極的に活用してください。
第1位:出張日当(役員への非課税給付)
そして1位は、多くの社長が見落としている「出張日当」です。
会社が旅費規程(出張規程)を整備していれば、役員への日当支給が「非課税」で受け取れます。給与ではなく「実費補填」という扱いになるため、所得税も社会保険料もかかりません。
たとえば1日あたり1万円の日当を設定し、月に10日出張があれば、月10万円・年120万円の非課税収入が実現します。会社にとっては損金になり、役員は税金なしで受け取れる——いわゆる二重のメリットがある節税手法です。実際、年間100万円を超える日当を受け取っている社長も珍しくありません。
重要なのは、旅費規程がきちんと整備されていること。「実態のない日当」と見なされると否認されるリスクがあります。支給額が社会通念上の範囲内であること(国家公務員の旅費規程が一つの目安)、出張の記録をしっかり残すことが必須です。
引退まで数年あるなら、今期中に旅費規程を整備して日当の支給を始めれば、残りの在任期間を通じて合法的に節税できます。
引退は「節税のゴール」ではなく、「最後の仕上げのチャンス」です。経営者として長年会社を守ってきたなら、辞める前に合法的に使える経費はしっかり使い切っておきましょう。
旅費規程がまだ整備されていないなら、今期中に動き出すのが得策です。「どうせ辞めるから」と放置すると、取り返しのつかない機会損失になります。顧問税理士と一度、引退前の節税プランを整理してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。