65歳で会社を息子に譲り渡した社長から、こんな相談を受けたことがあります。「退職金3,000万円が入ったんだけど、とりあえず銀行の定期にしてある。これって正解ですよね?」
「悪くはないですが、20年後に少し後悔するかもしれません」と答えると、その社長は怪訝な顔をしました。一緒に簡単な試算をしてみると、投資先の選択次第で20年後の資産総額に4,800万円以上の差が生まれることがわかったのです。
最下位:「全額預貯金」という安全策が静かに資産を溶かす
多くの引退社長が選ぶのが、銀行の定期預金です。「元本が保証されているから安心」——その感覚は理解できます。でも現実を見ると、日本の普通預金の金利は年0.02%前後。3,000万円を預けて、1年の利息は6,000円ほどです。
問題はそれだけではありません。インフレが年2%進めば、3,000万円の「購買力」は20年後に実質2,000万円分ほどになります。元本の数字は変わっていなくても、買えるものが3分の2に減っているわけです。
現金が守りに見えて、実は資産を静かに溶かしている——これが、預貯金一択の最大のリスクです。
3位:不動産投資、引退後こそ「管理の重荷」が顕在化する
不動産投資は根強い人気があります。毎月家賃が入ってくる安心感は確かですし、現役時代に購入した収益物件をそのまま引退後も持ち続けるケースも多い。
ただ、引退後の不動産保有には特有の問題があります。空室が出たとき、設備が壊れたとき——それを処理するエネルギーが、現役時代と比べて確実に重くなります。ある社長は「退職後も大家業に縛られて、妻と旅行にも行けない」とぼやいていました。
管理会社に任せるにしても、それなりのコストがかかります。表面利回り8%でも、空室損失や修繕費・管理費を差し引いた実質利回りは4〜5%に落ちることも珍しくありません。悪い数字ではないですが、「引退後の楽な収入源」として考えると、想定より手間がかかるのが現実です。
2位:国内個別株、配当の魅力と「集中投資」の恐怖
「長く付き合ってきた企業の株を持ちたい」——そういう気持ちはよくわかります。高配当株なら年3〜4%のリターンも期待できますし、株主優待が楽しみという方もいる。
でも、1社または数社に集中投資したまま引退生活に入るのは、資産管理の観点からかなりリスクが高い。経営危機に陥った企業の株価が半年で70%以上下落した事例は、過去に何度もあります。退職金を集中させていた会社が倒産した——こういうケースは「他人事」では済まないのです。
配当収入は魅力的ですが、集中投資のリスクを分散しないまま引退後の生活費を株に頼るのは、少し立ち止まって考えてみる価値があります。
1位:世界インデックス投資、数字が語る「最適解」
世界の株式市場全体に連動するインデックスファンド(いわゆる全世界株式型)は、リスク分散という観点から最も合理的な選択肢の一つとされています。特定の企業や国に依存せず、世界経済の成長をまるごと取り込む仕組みです。
年率5%で運用できたと仮定した試算を見てみましょう。3,000万円を20年間そのまま置いておくと、複利の力で約7,960万円になります。一方、全額を預貯金(年0.02%)に置き続けた場合、20年後も約3,012万円のまま。その差は約4,948万円です。
もちろんリスクはあります。世界的な暴落局面では資産が一時的に3〜4割落ちることもある。ただ、20〜30年という長期で見れば、世界経済全体の成長に乗る形で資産が増えてきた歴史があります。引退後は毎日チャートを見て売買する必要はなく、保有し続けることが基本戦略なので、管理の手間も最小限です。
「増やす」より「減らさない・消耗しない」を優先する
正直に言うと、どれが正解かは人によって違います。不動産が性に合っている人もいれば、インデックス一択の人もいる。大切なのは自分のライフスタイルに合った運用方法を選ぶことです。
ただ、共通して言えることが一つあります。「全額預貯金だけは、ゼロリスクではない」ということです。元本は守れても、インフレに侵食されるリスクは確実に存在します。
引退後の資産運用は「増やすこと」より「減らさないこと」「管理で消耗しないこと」を優先した方が、結果として豊かな老後につながりやすい。退職金をどう運用するか、一度FPや資産設計の専門家と腰を据えて整理してみることをおすすめします。「何となく定期預金」のままにしておくのが、実は一番もったいない選択かもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な資産運用・税務判断は税理士・FPにご相談ください。