先日、ある3月決算の製造業の社長からこんな一言をいただきました。
「役員報酬って、一度決めたらそのままでいいですよね?」
——実は、この認識が最も損をするパターンです。
役員報酬は「一度決めたら1年間固定」というイメージを持つ社長は多いですが、それは半分正解で半分誤解。確かに、定期同額給与として損金算入するためには期中の変更はできません。ただし、年に一度だけ変えられるタイミングがあります。それが「事業年度開始から3ヶ月以内」という改定期限です。
3月決算の会社なら、4月・5月・6月の株主総会や取締役会での決議がそれにあたります。今まさにそのウィンドウが開いています。このタイミングを逃すと、次に変えられるのは1年後。最適化のチャンスをまた一年棒に振ることになります。
高すぎても低すぎても損になる仕組み
役員報酬には、社会保険料も含めたトータルで「最も手取りが多くなる額」が存在します。
報酬を上げれば法人税は下がりますが、個人の所得税・住民税・社会保険料が増えます。逆に低く設定すれば個人の税負担は軽くなりますが、法人に利益が残って法人税がかかる。この綱引きの中に、最適なポイントがあります。
よく「役員報酬は1,000万円くらいが目安」と言われますが、これは大雑把すぎます。法人の利益水準、オーナーの年齢、家族構成、社会保険の加入状況によって最適額は全く変わります。ある試算では、月額80万円を90万円に変えるだけで年間の手取りが50万円以上増えたケースもあります。逆に報酬を上げすぎて、社会保険料の増加分が丸ごと損になったケースも珍しくありません。
実際、設定を見直しただけで年間の手取りが最大240万円ほど変わったケースもあります。月額にすれば20万円の差。「知らなかった」では済まされない金額です。
なぜ顧問税理士は教えてくれないのか
税理士が役員報酬の最適設定を積極的に提案しないのは、意地悪だからではありません。シンプルに「手間がかかりすぎる」からです。
最適額のシミュレーションには、法人税・所得税・住民税・社会保険料の4つを同時に計算する必要があります。さらに家族構成、配偶者の収入、扶養控除の有無、将来の退職金設計……といった個別事情も加味すると、1件あたりかなりの作業時間がかかります。
多くの事務所では「顧問料に含まれないサービス」として扱っているか、そもそも提案の仕組み自体を持っていないかのどちらかです。つまり、社長が自分から「最適な役員報酬はいくらですか?」と聞かない限り、誰も計算してくれないまま1年が過ぎていく。これが現実です。
「聞いてないから教えなかった」——そんな言葉が返ってきても、損をするのはあなたです。
今すぐ確認してほしい3つのチェック
役員報酬を見直すべきかどうか、自分でできる簡単なチェックがあります。
- 法人の利益が毎年コンスタントに出ているのに、役員報酬を数年間変えていない
- 社会保険の標準報酬月額が変わっているのに、報酬額は据え置きのまま
- 配偶者や家族への役員報酬(家族役員)を一度も見直したことがない
一つでも当てはまるなら、今期の改定期限内に試算してもらう価値は十分あります。
特に「家族役員への報酬分散」は、正しく設定すれば個人・法人双方の税負担を同時に下げられる有効な手法です。ただし、税務署から「不相当に高額な役員報酬」と認定されるリスクもあります。実態のある業務内容と報酬額のバランスは、必ず専門家と確認するようにしてください。
3月決算の社長が今週動くべき理由
4月が終わり、5月になると改定の猶予は2ヶ月を切ります。株主総会の日程調整を考えると、実質的に動けるのは5月中旬まで、という会社も少なくありません。
「今期は忙しかったし、来期にしよう」——この先送りが、毎年数十万円単位の損失につながっています。
顧問税理士に「役員報酬のシミュレーションをお願いしたい」と今週中に一本連絡してみてください。頼まれなければ動かないのが税理士という職業の現実ですが、声をかければちゃんとやってくれます。損をするかどうかは、あなたが先に動くかどうかだけです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。