先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「退職の半年前に法人保険を解約したんですが、後から計算したら2,000万円近く損していたみたいで……」

顧問税理士に相談していたにもかかわらず、です。悪意があったわけではありません。ただ、法人保険の解約タイミングという観点では、詳しい税理士でなければ正確なアドバイスが難しいのも事実です。

法人保険には「このタイミングで解約すると大損する」という地雷が保険の種類ごとに埋まっています。退職が近づいてから慌てて動いても手遅れになることが多い。今回は、特に損しやすい3つの保険をランキング形式でご紹介します。

第3位:逓増定期保険

逓増定期保険は、保険金額が契約期間中に段階的に増加していく仕組みで、節税効果の高さから多くの社長に活用されています。ただし、解約タイミングを誤ると一転して大きなダメージになります。

最大の落とし穴は、契約から5年以内に解約してしまうケースです。この時期は解約返戻率が非常に低く、50%を下回ることも珍しくありません。年間保険料500万円で5年間払い込んでいれば総額2,500万円。それが半分以下しか戻ってこない計算になります。

退職時期は想定通りにいかないことがあります。体調の変化、M&Aの話、後継者の準備が思ったより早く整った――そういった事情で「今すぐ」となったとき、5年という縛りは思わぬ落とし穴になります。

逓増定期に加入している社長は、解約返戻率の推移表を手元に置いておくことが鉄則です。

第2位:短期払終身保険

払込期間を10年や15年など短めに設定することで節税効果を高めるのが、短期払終身保険の特徴です。払込が完了した後は解約返戻率が一気に跳ね上がる構造になっています。

裏を返せば、払込完了前に退職して解約してしまうと、返戻率が急落するということです。「最もおいしい部分を目前にして捨てる」行為に等しく、それまで払い続けてきた保険料の多くが無駄になりかねません。

たとえば払込完了まであと2年あるのに、退職を急いで解約した場合、数百万円単位の損失が出ることがあります。解決策は単純で、払込完了と退職タイミングをずらすことです。退職を少し遅らせて払込を完了させるか、事情があってそれが難しいなら、別の手段を検討する必要があります。

「あと2年待てばよかった」という後悔は、退職計画を立てる段階で払込スケジュールを確認するだけで防げます。

第1位:長期平準定期保険

損失額が最も大きくなりやすいのが、長期平準定期保険です。

この保険には解約返戻率に「ピーク」があります。一般的に、そのピークは契約から7〜10年後に訪れます。そしてピークを過ぎると、返戻率は右肩下がりで急速に低下していきます。

仮に保険料の総支払額が5,000万円だとしましょう。ピーク時の返戻率が90%なら解約返戻金は4,500万円。ところがピークから3〜4年ずれただけで返戻率が70%を割り込み、手元に戻る金額が3,500万円以下になることもあります。その差額は1,000〜2,000万円超。退職金の設計が根本から狂ってしまう規模の損失です。

これは「損した」というよりも「受け取れたはずのお金を取り損ねた」感覚に近いですが、実際に手元に残る金額は大きく変わります。

長期平準定期に加入している場合は、返戻率の推移表を税理士と一緒に見ながら、「この年に解約すれば最大、この年までなら許容範囲」という見通しを立てておくことが理想です。退職の2〜3年前には必ず確認する、それだけを習慣にしてください。

タイミングがすべてを決める

法人保険は、正しいタイミングで解約できれば退職金の強力な原資になります。しかしタイミングを誤れば、何百万〜何千万円単位の損失を生む諸刃の剣でもあります。

「まだ退職は先の話だから」と後回しにしているうちに、気づけばピークを過ぎていた――というケースは本当によく聞きます。今、法人保険に加入しているなら、一度、解約返戻率の推移表を引っ張り出して現在地を確認してみてください。それだけで、数年後の手取りが大きく変わるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。