先日、年商3億円の建設業を営む社長から電話がありました。
「今から役員報酬を上げたいんですけど、いつでも変えられますよね?」
聞けば、決算前の試算で利益が想定以上に出ていることがわかり、慌てて変更を検討したとのこと。その社長の決算月は3月。すでに7月に入っており、私は「今期は間に合いませんでした」とお伝えするしかありませんでした。
知らないと損をするルールほど怖いものはありません。役員報酬は、まさにその典型です。
「役員報酬はいつでも変えられる」は大きな誤解
会社員の給与と違い、役員報酬には厳格な変更ルールがあります。
税法上、役員報酬を損金(経費)として算入できる形で変更できるのは、事業年度の開始から3ヶ月以内だけです。3月決算なら4〜6月末、9月決算なら10〜12月末、という具合です。
この期間を過ぎて変更しても、増加分は損金に算入されません。つまり報酬を上げても、その分に法人税が丸々かかり続けます。なぜこんなルールがあるのか。決算期直前に報酬を急に上げて利益を圧縮する——そういった操作を防ぐための仕組みです。
退職金の「計算土台」を自ら削ってしまう
役員退職金には、業界でよく使われる計算の目安があります。
退職金の目安 = 最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率
たとえば月額報酬50万円・在任20年・功績倍率3.0なら、50万 × 20 × 3.0 = 3,000万円。ところが報酬を月30万円に抑えていたとしたら、同じ計算で1,800万円。差額は1,200万円です。
「今は報酬を抑えて節税しよう」という判断が、将来受け取れる退職金の上限ごと削ることにつながります。現役中の節税と退職金設計は、セットで考える必要があるのです。
法人に利益を残しすぎると法人税を過払いする
「会社に利益が残るのはいいことだ」——これは半分正解で、半分は誤解です。
法人に残った利益には、法人実効税率(中小企業で約34%)がかかります。年商2〜3億円の会社で、役員報酬が年500〜600万円というケースをよく見かけますが、これは多くの場合、低すぎます。
仮に役員報酬を年300万円引き上げると、法人の課税所得が300万円減り、法人税は約102万円の節減です。個人側に所得税・住民税はかかりますが、累進課税で低い税率帯に収まれば、法人で課税されるより有利になることも多いです。これが積み重なると、5年・10年で数百万円単位の差になります。
4月を過ぎると、1年間ずっと手が打てない
上の2つの問題に気づいたとしても、タイミングを逃したら何もできない——これが最も深刻な落とし穴です。
3月決算なら変更の期限は6月末。7月1日に気づいても、その期は損金算入の形では動けません。「決算が終わったら考えよう」という1つの先送りが、丸1年の損失につながります。
年間200万円の差は、少し大げさに聞こえるかもしれません。しかし報酬の適正化で法人税を年間100万円節減し、退職金の基礎が上がることで最終受取額が100万円増えるとすれば、十分にあり得る数字です。
今すぐ確認すべき3つのこと
役員報酬の見直しを検討するなら、以下の3点を税理士と確認してみてください。
- 今期の変更期限はいつか(自社の決算月を確認)
- 現在の報酬額は年商・利益に対して適切な水準か
- 将来の退職金シミュレーションを一度でも試算したことがあるか
最適な報酬額は、会社の規模・業種・退職金設計・個人の他の所得など、複数の要素が絡み合います。「いくらにすればいい」という答えは一概には言えませんが、何も見直していない状態が一番まずいとだけ言えます。
まだ役員報酬を一度も見直したことがないなら、変更期限が来る前に、一度税理士に話を聞いてみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。