先日、ある社長からこんな相談を受けました。「去年も役員報酬を変えなかったんですが、特に問題ないですよね?」と。
その方の報酬設定を見せていただいたところ、正直に言えば「かなり損をしている」状態でした。年間で100万円単位の話です。気づいていないだけで、毎年同じ額を捨て続けていた計算になります。
役員報酬は、一度決めたら原則として期中には変更できません。4月の定時株主総会でしか動かせないケースがほとんどで、このタイミングを逃すと1年間そのまま走り続けることになります。では、放置するとどれくらい損をするのか。今日はその話をしたいと思います。
第3位:所得税・住民税の損失、年間30〜50万円
「なんとなく昨年と同じ額にしている」という社長は少なくありません。しかしそれが、知らないうちに大きな損になっていることがあります。
報酬が高すぎると、所得税と住民税の合計税率は最高55%に達します。報酬を1円増やしても、手元に残るのは45銭だけ、という世界です。それなら法人に利益を残しておいたほうがよかった、という話になります。
逆に低すぎても問題で、法人側の利益が増えれば法人税がかかります。個人と法人の合計税負担が最小になるバランスが「最適分配」と呼ばれるもので、そこから外れるたびに無駄な税金を払うことになります。年間30〜50万円の差が出やすいポイントです。
第2位:社会保険料の損失、年間50〜80万円
多くの社長が意外と見落としているのがここです。
厚生年金には標準報酬月額の上限があり、月額65万円を超えると、それ以上報酬を上げても社会保険料の計算ベースは変わりません。つまり「保険料は取られ続けるのに、将来もらえる年金は増えない」という効率の悪い状態になります。
さらに社会保険料は会社と個人で折半のため、報酬を高く設定するほど会社側の負担も増えます。手取りを増やそうと報酬を引き上げたのに、結果として会社と個人の双方が損をする、という構造です。設定を誤ると年間50〜80万円の差になることも珍しくありません。
第1位:退職金計算への影響、数百万〜数千万円
これが一番インパクトの大きいポイントです。そして、最も見落とされやすい部分でもあります。
役員退職金の計算式をご存知でしょうか。税務上の目安として広く参照されているのが「最終報酬月額 × 在職年数 × 功績倍率」という計算式です。
たとえば最終報酬月額が月80万円で在職30年、功績倍率3倍なら退職金は7,200万円。これが月60万円だと5,400万円。差額は1,800万円です。しかも退職金は所得税上の扱いが優遇されているため、給与で受け取るより手元に残るお金が多くなります。
今の報酬設定が、10年後・20年後の退職金額を決めているという感覚を持てると、役員報酬の見方がガラッと変わります。「今年もこのままでいいか」という判断が、将来の数百万〜数千万円に直結しているのです。
4月を逃したら、次は1年後
役員報酬の変更は、税務上の要件として事業年度開始から3ヶ月以内に行う必要があります。3月決算の会社なら6月まで、4月決算なら7月まで、といった具合です。多くの会社が4月に定時株主総会を開くのはそのためです。
「去年も変えなかったから今年も…」という慣性が積み重なると、気づかないうちに数百万円単位の差になります。毎年4月に一度、今の報酬設定が本当に最適かどうかを確認する習慣を持つだけで、長い目で見ると大きな違いが生まれます。
報酬の最適値は会社の利益状況や家族構成、居住地域によっても変わります。「うちはどうなんだろう?」と思ったら、ぜひ顧問税理士に一度シミュレーションを依頼してみてください。今ならまだ間に合います。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。