先日、ある社長からこんな相談を受けました。「うちは毎年役員報酬を変えていないんですが、特に問題ないですよね?」——その言葉に、思わず正直に答えてしまいました。「問題は、大ありです」と。

役員報酬を損金として認めてもらうには、事業年度開始から3ヶ月以内に金額を決める必要があります。3月決算の会社なら6月末まで、12月決算なら3月末まで。つまり4月は、多くの会社にとって「今期のラストチャンス」です。この時期を何となく流してしまうと、翌年の4月まで手が打てません。

では実際、放置するとどれだけ損するのか。今日は3つのポイントを、具体的な金額とともにお伝えします。

第3位:社会保険料の「払い損」が積み上がる(年間損失:30〜50万円)

役員報酬が高いほど社会保険料も増えていきますが、厚生年金には「標準報酬月額65万円」という上限があります。月100万円の報酬を受け取っていても、年金の計算に使われるのは65万円まで。それ以上の保険料は、将来の年金額にほとんど反映されません。

にもかかわらず、報酬が高すぎる設定のまま何年も続けている社長は少なくありません。会社負担分と合わせて考えると、この「払い損」部分が年間30〜50万円に達するケースもあります。最適な水準に見直すだけで、キャッシュが手元に残るようになります。

もちろん、単純に下げればいいという話ではなく、後述する退職金や税負担とのバランスが必要です。

第2位:法人税と所得税の「最適交差点」を外している(年間損失:最大100万円以上)

「報酬を高くすれば手取りが増える」「低くすれば法人税が安くなる」——この感覚は正しいのですが、どこで止めるかが問題です。

法人税率はおよそ23〜34%、所得税率は最大45%に住民税10%が加わります。報酬が低すぎると法人内に利益が残って法人税がかさみ、高すぎると個人の所得税・住民税が膨らむ。この2つのバランスが取れた「最適報酬額」は、会社の規模や利益水準によって毎年変わります。

売上が伸びた年、設備投資で経費が増えた年、家族構成が変わった年——こうした変化があれば、最適な報酬額も変わるのが当然です。「昨年と同じでいい」という判断が、法人と個人を合わせた税負担で年間100万円以上の差を生んでいる例は、決して珍しくありません。

第1位:退職金の「原資」を静かに削り続けている(将来損失:数百万円以上)

これが最も見落とされやすく、気づいたときには取り返しがつかない損失です。

役員退職金の計算は、シンプルです。「最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率」——この式を見ると、月額報酬がどれだけ重要かがわかります。功績倍率を1.5として計算した場合、月額報酬が50万円と60万円では、在任20年で退職金に300万円の差が生まれます。

「節税のために報酬を低く抑えている」という判断は、毎月少しずつ将来の退職金を削っていることと同じです。しかも退職金は受け取り時に退職所得控除が使えるため、税効率が非常に高い。この点を含めて設計しないと、生涯トータルで大きく損をすることになります。

4月に一度だけ、この質問をしてみてください

役員報酬の見直しは、「上げるか下げるか」という単純な話ではありません。社会保険料・所得税・法人税・退職金の4つを同時に見渡して、最適な数字を出す作業です。

「昨年の踏襲」は最も手間のかからない選択ですが、最も損している可能性もあります。今月、税理士に一度だけ聞いてみてください。「今の役員報酬の設定、本当に最適ですか?」——その一言が、年間100万円以上の差を生むかもしれません。

改定の機会は年に一度きりです。今月を逃すと、次は来年の4月まで手が打てません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。