先日、顧問先の社長からこんな相談を受けました。「奥さんを役員にして給与を払っているのに、税理士に『効果が薄い』と言われた。何が間違っているんだろう?」

実は同じような悩みを持つ社長が、思っているより多いんです。家族を役員にして所得分散するのは、オーナー企業にとって定番の節税策。でも、設計を間違えると節税どころか余計なコストが増えることもあります。

今回は特に多いミスを3つ、具体的な数字と一緒に整理していきます。

第3位:給与が低すぎて分散になっていない

最初に聞いたとき、「そんなまさか」と思うかもしれません。でも実際には、奥さんへの役員給与を「年103万円以内」に抑えているケースが非常に多い。

確かに、103万円以内なら配偶者控除が使えて、所得税がかかりません。でも節税の観点からは、ほぼ意味がないんです。

所得分散の本来の目的は、社長に集中した所得を家族に移すことで、適用される税率を下げること。でも給与が少なすぎると、移した金額に対する「税率の差」が生まれません。法人側の損金算入額も小さいので、節税効果はわずか。

目安として、最低でも年間180万円以上を設定するのがスタートラインです。月15万円なら、社会保険の扶養を外れずに済む可能性もあり(詳しくは後述)、かつ法人税の節税効果も出てきます。

給与額を決める際は「103万円の壁」だけを意識するのをやめて、法人の税率と個人の税率の差を軸に考えてみてください。

第2位:「形だけ役員」は税務調査で必ず指摘される

税務署の調査官が最も目を光らせるポイントのひとつが、ここです。

役員として登記し、給与を払っていても、実態が伴っていなければ損金として認められません。「名前だけ取締役」「実際には何もしていない」というケースは、調査が入ったときに真っ先に指摘されます。否認されれば、払った給与は全額損金にならず、追徴課税が発生します。

実態を証明するために必要なのは、主に2点です。

ひとつは取締役会・株主総会の議事録。役員を選任した記録と、定期的な意思決定への関与を示す書類です。もうひとつは業務記録。どんな業務を、いつ、どれくらい担当しているか。たとえば「経理補助を週3日・月60時間」など、具体的な記録があるかどうかが問われます。

「証拠がないと言い訳できない」という感覚で、日常的に記録を残しておくことが大切です。実態のある業務を担ってもらいつつ、それを可視化する。これが長く使える所得分散の基本です。

第1位(最も損しやすい):社会保険の計算ミスで逆ザヤが発生

これが一番深刻です。所得税の節税を計算していたのに、社会保険料の増加でむしろ手取りが減るというパターン。

配偶者を家族の社会保険扶養に入れている場合、給与が一定額を超えると扶養から外れて、独立した社会保険加入が必要になります。そうなると、法人負担・本人負担あわせて年間で30〜50万円の保険料増加が起きることがあります。

節税効果が年20万円だったとして、社保料が年40万円増えたら、差し引き20万円の「逆ザヤ」です。これで喜んでいたら、相当まずい。

さらに、高い給与を払えばいいかというと、それも違います。厚生年金の保険料は標準報酬月額65万円が上限です。これを超える給与を設定しても、保険料は増えるのに年金受給額は増えない。そのため、高額な1本より複数人への分散のほうが、トータルの手取りが増える構造になっています。

社会保険は「税金だけを見ていると最適解が出ない」分野です。所得税・住民税・社会保険料を全部ひっくるめて、手取りベースでシミュレーションすることが欠かせません。

正しい設計のために

家族役員による所得分散は、正しく設計すれば年間数十万〜100万円以上の節税効果が見込める、強力な手段です。ただし「とりあえず役員にした」「給与は低めにしておいた」という状態では、効果は出ません。

設計のポイントをまとめると:

  • 給与額は税率差が生まれる水準に設定する(最低180万円/年が目安)
  • 実態は議事録と業務記録で継続的に証明する
  • 社会保険料の増加を含めたネットの手取りで判断する

特に社会保険の計算は複雑なので、一度きちんとシミュレーションしてみることをおすすめします。家族全体の手取りを最大化する給与額は、税理士と一緒に計算するのが確実です。まだ家族役員の給与を「なんとなく」で決めているなら、今期の役員報酬改定のタイミングで見直してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。