先日、60代の製造業の社長から、こんな相談を受けました。
「息子に会社を継がせたいんだけど、銀行への個人保証だけはどうしても引き継がせたくない。でも、外し方がわからないまま10年が過ぎてしまった」
実は、この悩みを抱えている社長は、思っているより多いんです。会社は黒字、後継者もいる。でも、個人保証だけがずっと首に引っかかっている。もし知らないまま引退してしまえば、子どもや後継者にそのリスクをそのまま渡すことになりかねません。
今回は「経営者保証ガイドライン」をベースに、個人保証を外すために必要な条件を3つ整理してお伝えします。
前提として:経営者保証ガイドラインとは
2014年に策定された「経営者保証に関するガイドライン」は、一定の条件を満たした法人の経営者が、金融機関に対して個人保証の解除や不要化を交渉できる指針です。法的拘束力はないものの、全国の金融機関がこのガイドラインへの対応を求められており、実務的には大きな力を持っています。
問題は、「交渉できる権利があっても、条件を整えていない社長が多い」という現実です。
条件その3:財務情報を定期的に開示する
最初のハードルは、意外とシンプルです。決算書や試算表を、定期的に金融機関へ提出していますか?
「銀行には融資のときだけ持っていく」という社長も多いのですが、それでは交渉の土台になりません。ガイドラインでは、法人と経営者の一体性を排除するための透明性として、財務情報の継続的な開示が求められています。
具体的には、決算後に速やかに決算書を提出し、毎月や四半期ごとに試算表を共有する。それだけで「この会社はきちんと情報を開示してくれる先だ」という信頼関係ができ、保証解除の交渉が格段にしやすくなります。情報を出さない会社に、銀行はリスクを取れないのです。
条件その2:純資産がしっかりプラスになっている
財務の実態として、自己資本比率がある程度確保されていることも必須です。目安としては10〜20%以上が一つの基準になります。
赤字が続いている、あるいは債務超過の状態では、いくらガイドラインを持ち出しても銀行は首を縦に振りません。個人保証があるからこそ融資が成立しているケースでは、保証を外せばそのまま融資そのものが見直される可能性もあります。
逆に言えば、純資産を積み上げることが引退設計の根幹です。利益をきちんと内部留保に回し、自己資本を厚くしておく。これは節税とのバランスが難しい部分でもあるのですが、「税金を減らすために利益を圧縮しすぎると、保証が外せなくなる」というトレードオフを意識しておく必要があります。
条件その1:保証に代わる手段を提示できる
ここが最も重要なポイントであり、多くの社長が見落としているところです。
個人保証を外すためには、「じゃあ代わりに何で担保するのか」を示す必要があります。その選択肢として有力なのが、信用保証協会が提供している「経営者保証なし融資」の枠組みです。一定の財務要件を満たす法人であれば、保証なしで融資を受けられる制度が整備されてきており、近年は利用しやすくなっています。
また、事業承継の場面では「事業承継時の特則」が活用できます。これは、先代経営者の個人保証を後継者に引き継がせないための特別なルールで、後継者が新たに保証人になることなく会社を受け継げるケースがあります。
知らずに引退してしまうと、子どもや後継者が何億もの連帯保証を背負ったまま経営をスタートすることになりかねない。それは、渡したい「会社」ではなく「リスク」を渡すことになってしまいます。
引退を考えはじめたら、今すぐ動く
個人保証の解除は、申し込んですぐに完了するものではありません。財務情報の開示実績を積み、純資産を整え、代替手段を用意して、そのうえで金融機関と交渉する。これには最低でも1〜3年のスパンが必要なことも珍しくありません。
「引退は5年後かな」と思っているなら、動き始めるのは今です。逆算して準備しないと、間に合わないのです。
顧問税理士や取引金融機関の担当者と一度、「経営者保証ガイドラインに沿った保証解除の可能性」について話し合ってみてください。意外と「実は話を聞く用意がありましたよ」という金融機関も増えています。社長自身が知識を持って交渉のテーブルにつくこと、それが何より大切な第一歩です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務・財務判断は税理士や金融機関にご相談ください。