先日、ある社長からこんな相談を受けました。「ハワイにコンドミニアムを持っている父が亡くなって、現地の弁護士に手続きをお願いしたんですが、それだけで大丈夫ですよね?」
思わず、「それだけでは、たぶん大丈夫じゃないです」とお伝えしました。
海外に資産がある場合の相続は、国内だけの相続と比べて格段に複雑です。知らないまま手続きを進めると、後から多額の追徴課税を受けるケースが珍しくありません。今回は、特に見落とされがちな3つの落とし穴をお伝えします。
落とし穴①「海外の資産は海外で完結する」という誤解
最もよくある勘違いがこれです。日本に住んでいる方が亡くなった場合、その方が保有していた資産は場所を問わず、すべて日本の相続税の課税対象になります。
ハワイの不動産も、シンガポールの銀行口座も、アメリカの株式も例外ではありません。「現地の手続きは終わった」という状態で日本での申告を忘れていると、税務署からの指摘を受けることになります。
申告漏れが発覚したときのダメージは相当なものです。通常の延滞税に加え、悪質と判断されると**重加算税が最大40%**課されます。本来の税額の4割増しが追加でのしかかってくるわけですから、「知らなかった」では済まないのが税の世界です。
落とし穴②「二重課税」の罠と、救済制度の存在
海外資産の相続でもう一つ怖いのが、現地国と日本の両方で相続税がかかる「二重課税」の問題です。
先ほどのハワイのコンドミニアムを例にとると、アメリカ側でも遺産税(Estate Tax)が発生する可能性があります。そして日本でも相続税を払う、という二重負担になりかねません。
ただし、救済策は存在します。**「外国税額控除」**という制度を使えば、現地で支払った相続税を日本の相続税から一定額差し引くことができます。二重取りを緩和するための仕組みです。
問題は、この制度の適用には正しい申告手続きが必要で、知らないまま放置すると控除を受けられないまま終わってしまうことです。「現地で税金を払ったから終わり」ではなく、日本での申告時に外国税額控除をきちんと織り込む必要があります。控除を使えたはずなのに使えなかった、というケースが実際に起きています。
落とし穴③ 海外資産の「評価」は一筋縄ではいかない
国内の不動産なら、路線価や固定資産税評価額をベースに評価を算出します。ところが海外の不動産にはそういった公的な評価基準が存在しないケースがほとんどです。
現地の不動産鑑定士による評価書を取得して、為替レートを適切な時点のものに換算して、さらに日本の相続税法上のルールに当てはめて計算する——この一連の作業は、国内相続しか経験のない税理士には正直ハードルが高いのが実情です。
評価額が変わればそのまま税額が変わります。評価を誤れば過少申告にも過大申告にもなり得ます。どちらに転んでも、後から修正申告や更正処分という話になりかねません。
「日本の税理士に任せているから安心」は危険なサイン
ここまで読んで、「うちは顧問税理士がいるから大丈夫」と思った方、少し立ち止まって考えてみてください。
顧問税理士が国際相続の経験を豊富に持っているかどうか、これは全く別の話です。国内の法人税や所得税が得意な税理士と、国際相続の専門家は、医師でいえば内科と外科くらい専門領域が異なります。
海外資産がある相続が発生した場合は、現地の弁護士や税務専門家と連携できる、国際相続に精通した税理士に相談することが不可欠です。早めに動くほど選択肢が広がり、節税の余地も生まれます。
親御さんが海外に資産を持っているなら、相続が発生してからではなく、今のうちに専門家に一度相談しておくことを強くおすすめします。生前に資産の所在や概要を整理しておくだけで、いざというときの手続きが驚くほどスムーズになります。「そのうち」が一番リスクの高い選択です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。