先日、フリーランスから法人成りして3年目の社長から、こんな相談を受けました。
「売上は順調に伸びているのに、手元に残るお金が思ったより少なくて……」
話を聞いてみると、社会保険料だけで年間150万円近く払っていることが判明。しかも、その金額がいかに「最適化できていない状態」かを説明したとき、社長の顔色が一瞬変わりました。
実は、知っている社長と知らない社長で、社会保険料の負担額に年間50万円以上の差がついているケースは珍しくありません。その鍵を握るのが「マイクロ法人」という考え方です。
社会保険料は「報酬月額」で決まる
社会保険料の計算の基本から整理しておきましょう。
会社員でも社長でも、社会保険料は「標準報酬月額」という区分をもとに算出されます。簡単にいえば、毎月の給与(役員報酬)が高ければ高いほど、保険料も増えていく仕組みです。
法人から月額80万円の役員報酬を受け取っている社長なら、健康保険と厚生年金を合わせた社会保険料は月12〜13万円前後、年換算で150万円を超えることもあります。この金額、会社負担分も含めると実質的なコストはさらに大きくなります。
ここで多くの社長がやってしまうミスが「個人事業と法人を一本化して、すべての収入を役員報酬に集約してしまうこと」です。
マイクロ法人とは何か
マイクロ法人とは、文字どおり「小さな別法人」のことです。
具体的には、個人事業(フリーランスや個人事業主としての活動)を残しつつ、別途、規模の小さな法人を設立します。この小さな法人を通じて受け取る役員報酬を「最低限の金額」に抑えることで、社会保険の標準報酬月額を意図的に下げる——それがマイクロ法人戦略の核心です。
事業で稼ぐお金の大半は個人事業の売上として受け取り、法人からの報酬はたとえば月額10万〜20万円程度に設定する。これだけで、標準報酬月額が大きく下がり、社会保険料の負担が劇的に軽くなります。
年50万円の削減というのは、決して大げさな数字ではありません。報酬設計を最適化できた場合、月額4〜5万円のコスト削減になる社長は実際に多くいます。
仕組みをもう少し具体的に見てみる
たとえば、個人事業と法人の両方を持つ社長が、法人からの役員報酬を月額15万円に設定したとします。
この場合、標準報酬月額は15万円の等級に該当するため、社会保険料は月額2〜3万円程度まで圧縮できます。一方、事業の本体収入は個人事業として受け取るため、生活費や事業費のキャッシュフローは確保できます。
個人事業の所得には国民健康保険や国民年金が適用されますが、それを加味してもトータルの社会保険コストが大幅に下がるケースが多いのです。
「そんな単純な話なの?」と思われるかもしれません。仕組みそのものはシンプルです。ただし、設計を誤ると話は別になります。
見落としてはいけないリスクと前提条件
マイクロ法人戦略には、正しく設計しないと逆効果になるリスクもあります。
まず、法人と個人事業の「事業内容を明確に分ける」ことが大前提です。同一の事業を法人と個人事業で兼営しているように見える場合、税務調査で問題になる可能性があります。それぞれの役割と収入の根拠を明確にしておくことが必須です。
また、役員報酬を極端に低く設定しすぎると、将来の年金受給額が減るというデメリットも忘れてはなりません。短期的なコスト削減だけを追うと、老後の受給額が想定より少なくなるリスクがあります。
さらに、法人を別に設立することで、法人住民税の均等割(年間7万円程度)が別途発生します。これを差し引いてもメリットが出るかどうか、数字でしっかり検証することが大切です。
こうした設計は、税務と社会保険の両方に精通した専門家と一緒に進めるのが賢明です。ネットの情報だけを頼りに動くのはリスクが高いので、ここだけは注意してください。
「やっていない」社長ほど損している
マイクロ法人戦略は、特別な節税スキームでも抜け穴でもありません。法律の範囲内で、報酬設計を最適化するという、ごく合理的な選択肢です。
ただ、知らないだけで毎年50万円以上を余分に払い続けている社長が、今もたくさんいます。1年放置すれば50万円、5年で250万円の差になります。
もし今、法人からの報酬だけで社会保険に加入していて、報酬額を特に見直したことがないなら、一度「自分の標準報酬月額がいくらか」を確認してみてください。そこから最適化の余地があるかどうかが見えてきます。
今期の決算が終わる前に、役員報酬の設計を顧問税理士と一度じっくり話し合ってみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。