先日、創業15年の建設会社の社長からこんな相談を受けました。「会社の決算書に『役員借入金2,800万円』ってずっと載ってるんだけど、これ、どうすればいいの?」と。

話を聞いてみると、創業当初に社長個人のお金を会社に入れてそのままになっているケース。こういう方、実はものすごく多いんです。そして怖いのは、「何となく後でなんとかなるだろう」と放置しているうちに、気づかぬうちに大きな税務リスクを抱えてしまうこと。

今回は、役員借入金の解消でやりがちな3つのミスを、具体的な金額感とともにお伝えします。


第3位:給与から天引きで返してもらおうとするミス

「毎月の役員報酬から少しずつ引いて返済すればいいんじゃない?」という発想、一見すると合理的に見えます。でも、これが意外と損な方法なんです。

役員報酬はそもそも「給与所得」として扱われます。つまり、1,000万円の報酬があれば、所得税・住民税・社会保険料が合計で40〜50%以上かかってくることも珍しくありません。手元に残る500万円程度の中から借入金を返しているわけで、「税金を払い終わったお金で返済している」状態になってしまうんです。

会社としても、役員報酬の増額は社会保険料の負担増につながります。返済のために報酬を上げると、会社と社長の双方がダブルで損をする構造になってしまいます。


第2位:業績が良い年に一括返済するミス

「今期は利益が出たから、まとめて返してしまおう」というのも、一見すると正しい判断に見えます。ただ、これにも落とし穴があります。

会社が社長に対して大きな金額を一括で支払うと、その分がまるっと会社のキャッシュから出ていきます。決算書のバランスが崩れ、「利益は出ているのに現預金が少ない」という状態になりやすい。

特に金融機関の融資審査では、決算期末の資金残高や流動性を重視します。たとえば2,000万円の借入金を一括返済した翌期に融資の申し込みをすると、「なぜ現金が急減したのか」という説明を求められ、審査が不利になるケースがあります。

「手元のキャッシュを使い切って返済する」より、「計画的に少しずつ解消する」ほうが、会社の財務体質という観点では正解に近いことが多いです。


第1位:相続まで放置するミス(最も危険)

これが最も深刻なミスです。役員借入金を何十年も放置したまま、社長が亡くなったとします。このとき、会社への貸付金は「社長の財産」として相続財産に含まれます。

仮に貸付金が1,000万円あれば、それが丸ごと相続税の課税対象になります。相続税の最高税率は55%ですから、最悪のケースでは550万円近い税負担が発生しかねない。しかも、現金で残しているわけではないので、相続人が納税資金に困るという事態も起こり得ます。

「会社への貸付金は会社が返してくれるから資産じゃないの?」と思いがちですが、税務上はきちんと評価されます。会社の財務状況によっては回収が難しい場合でも、一定の評価額がついてしまうことがあるんです。

このリスクを回避するための代表的な方法が2つあります。

1つ目はDES(デット・エクイティ・スワップ)、つまり借入金を資本金(株式)に振り替える方法。借入金が消えて資本金になるので、相続財産の性質が変わります。ただし株価評価への影響もあるため、専門家との慎重な検討が必要です。

2つ目は債権放棄。社長が会社への貸付金を放棄する方法ですが、会社側に「債務免除益」という利益が発生して法人税がかかる可能性があります。こちらも一概に「すぐやれば得」とは言えません。

どちらも「やり方を間違えると別の税負担が生まれる」という性質があるため、顧問税理士と綿密に計画を立てることが前提になります。


結局、いつ・何から始めればいい?

役員借入金は、金額が大きくなるほど対策の選択肢が狭まり、税負担も重くなります。「そのうち何とかしよう」と思っているうちに5年、10年が経過してしまうのがこのテーマの怖いところです。

まず今すぐできることは、自社の決算書を開いて「役員借入金」または「短期借入金(役員)」の残高を確認すること。そしてその金額が500万円を超えているなら、次の顧問税理士との面談で必ず話題に出してみてください。

役員借入金の解消は、やり方次第で大きな節税にもなれば、逆に大きな税負担を生むこともある、典型的な「知っているかどうかで差がつく」テーマです。まだ一度も整理したことがないなら、今期中に現状把握だけでも始めておくことを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。