先日、顧問先の社長からこんな連絡が来ました。

「税理士さん、去年の役員賞与って、ちゃんと経費になってますよね?」

決算が終わって数ヶ月後に、ふとした不安から電話をかけてきたんです。結果的にその社長は問題なかったのですが、話を聞くうちに「届出の存在自体、よくわかっていなかった」と言っていました。じつはこれ、珍しいことではありません。

役員に賞与を払いたい社長は多いですが、「事前確定届出給与」の仕組みをきちんと理解しているかどうかで、税負担が数百万円単位で変わることがあります。今日はその話をしっかりお伝えしたいと思います。

役員賞与は、ただ払うだけでは経費にならない

従業員への賞与は、払った時点で会社の経費(損金)になります。ところが役員への賞与は、原則として損金不算入、つまり経費にならないのです。

なぜかというと、役員は自分で報酬を決められる立場にあるので、「決算が良かったら賞与をたくさん払って利益を圧縮する」という恣意的な節税を防ぐためのルールがあるんですね。

ただ、一定の条件を満たせば役員賞与も損金にできます。その代表的な方法が「事前確定届出給与」です。

「事前確定届出給与」は名前の通り、事前に届け出るもの

簡単に言えば、「この日に、この金額を役員に払います」と税務署にあらかじめ届け出て、その通りに実行すれば経費として認めますよ、というルールです。

届出書には支払日と金額を明記します。たとえば「7月10日に300万円」「12月10日に200万円」と書いたなら、その通りに払わなければなりません。

問題はここからです。

「1円でも違う」「1日でもズレる」と全額アウト

このルールには恐ろしい側面があります。届け出た内容と実際の支払いが少しでも異なると、賞与の全額が損金不算入になるんです。

300万円と届け出たのに290万円しか払わなかった。支払日を7月10日と書いたのに、振込が翌11日になってしまった。こういったケースが実際に否認されています。「290万円は払ったんだから、290万円分は認めてほしい」という話にはならない。0か100かの世界なんです。

500万円の賞与が全額否認されると何が起きるか、具体的に考えてみましょう。

会社側では500万円が損金にならないので、法人税が余分にかかります(実効税率約30%とすれば150万円程度)。さらに役員個人は賞与を受け取っているので所得税・住民税もかかります。二重で税金が発生するため、合計で200万円以上の追加負担になるケースも珍しくありません。

届出期限も厳しい。「あとで出せばいい」は通じない

届出のタイミングにも厳格なルールがあります。原則として、株主総会などで賞与額を決議した日から1ヶ月以内、かつ支払日の前日までに税務署へ提出する必要があります。

「忙しくてうっかり出し忘れた」では済まされない話です。期限を1日でも過ぎれば、その届出は無効。賞与を払っても経費になりません。

中小企業の社長がよく陥るパターンとして、こんなものがあります。

  • 定時株主総会のスケジュールが後ろ倒しになり、届出期限を過ぎてしまう
  • 資金繰りの都合で支払日を少しずらしたら、届出と一致しなくなった
  • 業績が悪化して賞与を減額したが、届出の変更手続きを知らなかった

どれも「悪意はない」のに、税務上は否認されてしまう典型的なケースです。

払えない事情ができたとき、どうするか

資金繰りが苦しくなって予定していた賞与が払えなくなった場合、「ゼロにする」という選択が必要になることがあります。

じつは、届け出た金額を**ゼロにする(支払わない)**ことは、税務上は「全額支払った扱いにはならない」ため、否認のダメージを受けにくいという考え方もあります。ただしこれも解釈がデリケートな部分がありますので、判断は必ず税理士に確認してください。

一番やってはいけないのは、「届出と違う金額を何となく払ってしまう」こと。それが最も損失が大きいパターンです。

正しく使えば強力な節税ツールになる

ここまで怖い話ばかりしましたが、事前確定届出給与は正しく使えば非常に有効な所得分散の手段です。

役員報酬を毎月定額で受け取る形と組み合わせることで、個人の所得を分散し、累進課税の影響を抑えることができます。特に業績が安定してきた中小企業の社長にとっては、検討する価値が高い仕組みです。

ただし、そのためには毎年のスケジュール管理が欠かせません。株主総会の日程、届出の提出期限、支払日の確認。この3点をカレンダーに入れて、顧問税理士と事前にすり合わせておくことが最低限のリスク管理です。


役員賞与の届出、今期のスケジュールはもう確認できていますか?

「毎年なんとなくやっている」「税理士に任せきりで中身を知らない」という社長こそ、一度仕組みをきちんと理解しておくことをおすすめします。知っているだけで防げるリスクが、確実に存在します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。