先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「10年前から子供の名義で口座を作って、毎年110万円ずつ振り込んできた。これって相続対策になってますよね?」と。

話を聞いてみると、通帳も印鑑も社長自身が管理していて、子供はその口座の存在すら知らない。思わず「それ、名義預金です」と伝えざるを得ませんでした。

「毎年110万円」が無意味になる瞬間

贈与税には年間110万円の基礎控除があります。この枠を使って家族名義の口座にコツコツ振り込む、いわゆる「暦年贈与」は王道の相続対策のひとつです。

ただし、これには重大な前提条件があります。あくまで「実態を伴った贈与」でなければならないということです。

税務署が相続税の調査に入ったとき、真っ先に確認するのが「誰が通帳と印鑑を管理しているか」です。名義は子供でも、実態として親が管理していれば、それは「親の財産」と判断されます。これが名義預金の否認です。

10年分が一瞬で相続財産に戻される

名義預金と認定された場合、その口座の残高はそっくりそのまま相続財産に加算されます。10年間で1,100万円積み上げてきたとしたら、1,100万円が一気に課税対象に戻るわけです。

しかも怖いのは、時効の問題です。名義預金の否認は10年以上さかのぼって指摘されるケースもあります。そして発覚したときの追徴課税は、重加算税も含めると実質的な税率が最大40%近くに達することもある。

節税どころか、何もしなかった場合より損をするという、笑えない結末です。

正式な贈与として認められるための3つのポイント

同じ「毎年110万円の贈与」でも、やり方次第で税務署の判断は180度変わります。押さえておくべきポイントは3つです。

①通帳と印鑑は受取人本人が管理する

これが最も基本的かつ重要なことです。子供が未成年であれば親権者として管理することは認められますが、成人しているなら本人に渡すのが原則です。「なんとなく親が持っている」という状態が一番危険です。

②毎年、贈与契約書を作成する

口頭での贈与は後から証明が難しくなります。「いつ、誰が、誰に、いくら贈与したか」を書面に残し、双方が署名捺印する。これを毎年繰り返すことで、贈与の事実を積み重ねていきます。公証役場で確定日付を取るとさらに証拠力が高まります。

③受取人が自由に使える状態にしておく

贈与した後のお金を受取人が自由に引き出して使える状態にしておくことが大切です。「将来のために取っておきなさい」という親心はわかりますが、本人が自由に使えない状態は贈与の実態がないとみなされるリスクがあります。実際に一部を使ってもらう、または少なくとも本人が通帳を見て残高を把握している状態にしておきましょう。

「知っていたかどうか」で結果が大きく変わる

税務の世界では、同じ行動をしていても「正しい形式を整えているかどうか」で結果が真逆になることがあります。名義預金の問題は、まさにその典型例です。

悪意があるかどうかは関係ありません。「知らなかった」では済まされないのが税務調査の現実です。

今すでに家族名義の口座で贈与を続けているなら、今すぐ確認してほしいことがあります。その口座の通帳と印鑑は、誰が持っていますか?贈与契約書は毎年作っていますか?受取人は残高を把握していますか?

ひとつでも「できていない」があれば、今期中に整備し直すことをおすすめします。過去の分を完全に修正することは難しくても、今後の贈与を正しい形で積み上げていくことはできます。相続対策は早く始めるほど効果が大きい。だからこそ、正しいやり方で続けていくことが重要です。

担当の税理士に「うちの贈与、ちゃんと形式整ってますか?」と一度確認を入れてみてください。その一言が、将来の大きな追徴課税を防ぐことになるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。