先月、ある社長からこんな相談を受けました。
「会社の業績が上がってきたので、そろそろ自分の報酬を増やしたいんですが、いつ変えればいいのかよくわかっていなくて」
よくある相談です。でも、このとき決算期を一緒に確認して、少し焦りました。決算から4ヶ月が経過していたんです。あと1ヶ月早く動いていれば、年間300万円を経費にできたのに、と思うと胸が痛くなる場面でした。
役員報酬には「3ヶ月のタイムリミット」がある
役員報酬には、定時改定というルールがあります。
原則として、役員報酬は決算後3ヶ月以内に改定したものだけが、法人の損金(経費)として認められます。この期間を過ぎて報酬を増額しても、増額分は損金にできません。
「自分の会社なのに、自分の給料を変えるのに期限があるの?」と驚く社長も少なくありません。でも税法上の厳格なルールです。「知らなかった」では済まされないのが、役員報酬の怖いところです。
期限を逃すと、いくら損するのか
たとえば、月25万円の余地があるケースで考えてみます。
定時改定の期間内に変更できれば、年間300万円が法人の経費になります。法人実効税率を30%とすれば、90万円の節税が実現します。
ところが、この期限を過ぎて期中に変更してしまうと、増額分はその期の損金にできません。300万円がまるまる課税対象になり、90万円の節税チャンスがゼロになります。
しかも、個人として報酬を受け取る以上、所得税・住民税も上乗せされます。法人と個人の両方で課税が重なるケースも珍しくなく、実質的な損失はさらに大きくなることもあります。
「適正な報酬がいくらか」わかっていない社長が多い
タイミングと並んで見落とされがちなのが、そもそも自分の適正報酬を把握できていないという問題です。
業績が伸びていても、なんとなく去年と同じ報酬のまま。あるいは、税負担が気になって報酬を低めに設定しすぎている。どちらも、会社と個人を合わせたトータルの税負担を最適化できていない状態です。
役員報酬の設計は、法人税・所得税・住民税・社会保険料のバランスを総合的に考える必要があります。単純に「報酬を上げれば節税になる」わけではなく、一定の額を超えると個人側の税負担が急増するゾーンがあります。そのバランスポイントを見つけることが、適正報酬の設計です。
決算直後が「動くべきタイミング」
3ヶ月というのは長そうに見えて、決算処理や確定申告の準備と並行して動いていると意外と短いです。「来月でいいか」と先送りしているうちに期限を過ぎてしまうケースが、毎年一定数あります。
決算が終わったら、できるだけ早く次のことを確認しておくと安心です。
- 今期の利益はいくら残りそうか
- 法人税の実効税率と個人の所得税率のどちらが高いか
- 社会保険料の増加分も含めたトータルコストはいくらか
これらを把握した上で来期の役員報酬額を決める。それが、損をしない正しい順番です。
「また来期でいいか」は取り返せない
役員報酬の改定を1年先送りすると、その期の機会損失は二度と戻りません。月20万円でも適正報酬を上乗せできていれば、年間240万円の損金が積み上がります。実効税率の差が10%あれば、24万円を毎年黙って捨てているのと同じ計算です。
会社の業績が上向いているタイミングこそ、役員報酬の見直しに最も価値がある時期です。決算を迎えたら、まず税理士に「今の報酬設計、最適ですか?」と一言投げかけてみてください。その一言が、年間数百万円の差につながることがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。