先日、ある建設業の社長からこんな相談を受けました。

年商5億円。社員も抱え、事業は順調に回っている。なのに毎月の手元に残るお金が「少なすぎる」と感じているというのです。

役員報酬は月300万円。ところが社会保険料・所得税・住民税を引かれると、実際に口座へ入るのは160万円前後。稼いでいるはずなのに、半分近くが税金に消えていく感覚は、ベテランの経営者でも慣れないものです。

「もっと手元に残せないか」——そう顧問税理士に相談したところ、返ってきた提案は、想像とは真逆のものでした。

「報酬を下げる」という逆転の発想

税理士の提案は、役員報酬を月200万円に下げることでした。

「え、下げたら手取りがもっと減るんじゃ…」と思うのが普通の反応です。ところが試算してみると、実態はまったく逆でした。

ポイントは「報酬を下げた分を、法人の経費で補う」という考え方です。具体的には次の3つを組み合わせました。

  • 社宅の借り上げ:社長が住む自宅を法人名義で借り上げ、個人負担を大幅に圧縮
  • 法人カードの活用:交際費・通信費・業務関連の支出を法人経費へ
  • 出張旅費規程の整備:出張時の交通・宿泊・日当を規程に基づいて法人負担に

この3つを整えることで、月50万円分の生活コストを法人経費でカバーできるようになりました。

数字で見ると「逆転」の理由がわかる

所得税と住民税を合わせた最高税率は55%です。役員報酬が高い社長の場合、稼いだ100万円のうち50万円以上が税金に消えていきます。

月300万円の報酬を200万円に下げると、この高い税率がかかる部分が圧縮されます。さらに社会保険料の負担も下がります。

一方、法人経費として補填した月50万円分には所得税がかかりません。法人にとっても損金算入できるため、法人税の節税にもなります。

この社長の場合、報酬を月100万円下げて法人経費で50万円分をカバーした結果、実質的な手取りは以前より月50万円近く増えました。「報酬を下げたら手取りが増えた」——文字にすると不思議に聞こえますが、高税率の報酬を非課税の経費補填に置き換えるという構造を理解すると、至極合理的な話です。

経費化の「OK」と「NG」の線引き

「じゃあ何でも経費にしていいの?」という疑問が出てくるのは当然です。ここには明確な線引きがあります。

重要なのは「業務関連性」と「合理的な金額」の2点です。

社宅については、法定の計算式で個人負担額を設定する必要があります。全額タダではありませんが、市場家賃の1〜2割程度の個人負担で済むケースが多く、差額部分が実質的な節税になります。

法人カードや出張費も、完全にプライベートな支出まで法人経費にするのはアウトです。ただし業務の延長にある飲食・移動・通信費は、適切に区分すれば問題なく経費化できます。

大切なのは「節税したいから経費にする」ではなく、「実態に即した支出を正しく法人の経費として計上する」という整理の発想です。税務調査が入っても説明できる合理的な根拠が必要です。

この話が「刺さる」社長のパターン

役員報酬の最適化が特に効果を発揮しやすいのは、こういうケースです。

  • 役員報酬が月200万円を超えている
  • 社宅・出張費・交際費などを個人で払っている状態
  • 法人にキャッシュが溜まってきた

逆に、報酬が低い段階では所得税率も低く、法人経費への置き換え効果が薄くなります。試算してみたら「現状維持のほうが良かった」というケースもゼロではないので、必ず顧問税理士と一緒にシミュレーションするのが正解です。

役員報酬には変更のタイムリミットがあります。原則として期首から3ヶ月以内に変更しなければ、損金算入が認められません。つまり決算が近づいてからでは遅いのです。

まだ顧問税理士に「報酬を下げる提案」を受けたことがない方は、一度「役員報酬の最適化を試算してほしい」と相談してみてください。何となくの金額で何年も変えていない社長は、意外と多いです。試算一つで、月数十万円変わることも珍しくありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。