先日、不動産を10棟以上持つ60代の社長から、こんな相談を受けました。
「3年前に法人化したんだけど、あれは失敗だったかもしれない」
節税のために法人を作り、せっせと物件を移転させた結果、思ったほどの節税効果が出ていない。むしろ毎月の固定費が増えて、頭を抱えているというのです。
こういった「不動産法人化の後悔」は、実は珍しくありません。個人の最高税率55%に苦しむ不動産オーナーが法人化を選ぶのは自然な判断ですが、やり方を間違えると節税どころか逆効果になることがあります。
よくある失敗パターンをランキング形式でご紹介します。法人化を検討中の方は、「やってしまった」事例として参考にしてください。
第3位:移転コストで数百万円が消えた
法人化を決意して最初に直面するのが、物件を個人から法人へ移す際の諸費用です。
不動産の名義を変えるには、売買や現物出資という形をとることになります。このとき発生するのが登録免許税と不動産取得税です。
登録免許税は固定資産税評価額の2%、不動産取得税は評価額の3〜4%が目安です。評価額1億円の物件なら、それだけで500〜600万円のコストがかかる計算になります。複数棟を持つオーナーが一気に移転しようとすると、合計で数千万円になることも珍しくありません。
節税のつもりが、まず数百万円の出費から始まる——これが3位の落とし穴です。物件を動かす前に、移転コストと節税効果の損益分岐点を必ず試算しておきましょう。「何年後に元が取れるのか」を確認してから動くのが鉄則です。
第2位:維持費で節税効果がほぼゼロに
「移転コストを払っても長期的には得になるはずだ」と突き進んだ結果、今度はランニングコストの壁にぶつかります。
法人を維持するには、たとえ赤字でも毎年かかる費用があります。その筆頭が法人住民税の均等割で、最低でも年間7万円。東京都の場合、資本金や従業員数によってはさらに高くなります。
これに加えて、法人の決算・税務申告を依頼する税理士の顧問料が月2〜5万円程度、年間で24〜60万円かかります。不動産法人は消費税の判定や減価償却処理など専門的な判断が必要なため、税理士なしで申告するのは現実的ではありません。
結果、節税でリターンが出る前に、毎年30万円以上のコストが確実に発生します。賃料収入が少ない物件や節税額がそもそも小さいケースでは、「法人を作ったら年間コストが増えただけ」という結末になりかねません。
第1位:「出口」で身動きがとれなくなった
最も多く、最も深刻な後悔がこれです。
個人で持っていると最高税率55%がかかる。だから法人に移して法人税率23.2%にしよう——この判断は理論上は正しいです。問題は、法人から資産を「出す」ときに何が起きるかを考えていなかった点にあります。
不動産が法人名義になると、その資産は「法人のもの」です。オーナー個人がお金を手にしようとすれば、役員報酬か配当という形でしか出せません。その際には当然、個人の所得税がかかります。
物件を売却したい場合も同様です。法人が売却した利益には法人税が課され、さらにそのお金を個人に渡す際にもう一度課税が発生します。二重課税の構造です。相続のタイミングになれば「法人株式」として評価されるため、自社株の評価額次第では個人保有より相続税が重くなるケースさえあります。
「節税できると思って法人化したのに、いざ売ろうとしたら身動きがとれない」——これが最も多い失敗の本質です。
法人化そのものが悪いわけではない
誤解しないでほしいのですが、不動産法人化が「ダメな節税策」というわけではありません。賃料収入が十分にある規模で、長期保有を前提に出口戦略まで設計できているケースでは、法人化は非常に有効な手法です。
失敗するのは、「節税になる」という情報だけを信じて、コストや出口を考えずに動いてしまうからです。
不動産法人化を検討しているなら、「5年後・10年後に資産をどう動かすか」まで含めてシミュレーションしてみてください。法人化するかどうかは、その後で判断しても遅くはありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。